日本大百科全書(ニッポニカ) 「自体愛」の意味・わかりやすい解説
自体愛
じたいあい
autoerotism
精神分析の用語。自己や対象がまだ明確に存在しない段階での自分自身の身体に向かう性活動の様式で、性活動が身体ではなく自己に向かうようになるとナルシシズムになる。乳児は母親の乳房から吸乳することで自己保存の自我衝動を満たしているが、この満足が得られないと乳児は自らの指をしゃぶることで代理的に満足体験を再現しようとする。これが自体愛的行為の典型である。自体愛は、生理的要求を満たすものではなく、身体器官の活動、性感帯の刺激によっておこる快感を求めるものであり、また満足体験を幻覚的に再現しようとするものであることから、性的空想の起源ともなる。
[川幡政道]
『マイケル・バリント著、森茂起・枡矢和子・中井久夫訳『一次愛と精神分析技法』(1999・みすず書房)』