日本大百科全書(ニッポニカ) 「自動化学分析装置」の意味・わかりやすい解説
自動化学分析装置
じどうかがくぶんせきそうち
automated chemical analyzer
試料、試薬を一定量採取し、混合、攪拌(かくはん)、加熱、冷却、分離などの操作を加えて適当な化学反応をおこさせ、生成物の量を比色、発光比色、重量測定、電導度測定などの方法で定量することが化学分析であり、この操作を機械化したものが自動化学分析装置である。この装置では多数の試料を高速で連続分析できるほか、人や動物の血液などに含まれる多種類の化学物質を同時に測定することができる。自動化学分析装置は処理効率がよいことに加えて精度管理が容易なため、病院の検査部門や検査専門施設に数多く導入されている。
自動分析の方式は大きく以下の種類に分けられる。
[古川俊之]
連続液流処理方式
比例秤量(ひょうりょう)ポンプで試料、試薬を一定の空気で分節した液柱としてそれぞれ別のチューブに吸い取り、所定の処理を連続する液流に加えて分析する。空気で液柱を細かく分けると、前後の液柱がほとんど混合することなく送られるという原理を利用したもの。なお、オイルテクノロジー方式というのは、すべての連続液流をフルオロカーボンに包み込んで処理するもので、不活性、疎水性、無毒のオイルで液体の通路を被覆したことになる。そのため流路の洗浄は必要なく、水の供給なしに運転できる。またオイルは完全に回収再使用され損耗も少ないが、試薬の費用が高いといわれる。
[古川俊之]
ディスクリート方式discrete
試料や試薬を定量的にピペットで採取して、試験管などの反応容器に一定の時間手順で加え、混合反応させて分析処理を行う。人間の分析手順をそのまま機械化したといえる。
(1)バッチ方式batch ディスクリート方式の原形である。この形式には大型の装置が多い。しかし異なる試料が混じる危険がないので、免疫反応を用いた専用機によく用いられている。
(2)バッグ方式bag 必要な試薬を特殊なプラスチックのバッグに封入したあと、試料が定量加えられる。試薬の隔壁は順次機械的に破壊されて反応が記録される。操作が簡単で夜間や緊急時に用いられる。
(3)遠心混合方式 円盤に放射状に設けられた試料槽、試薬槽があり、これに自動ピペットで液を分注し、遠心の原理で液を混合させ、反応を進める。反応速度の早い場合、反応曲線から定量するのに適している。
[古川俊之]
電極法
測定物質に特化した電極を用いる。水素イオンガラス電極は早くからpH(ペーハー)(水素イオン濃度指数)測定に用いられ、さらに生体試料用として炭酸ガス分圧測定にガラス電極法、酸素分圧測定に白金電極(クラークClark電極)が知られていた。ナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などの測定にはイオン選択透過性の膜を使った電極が開発された。さらに酵素膜電極によって、血糖濃度、血中乳酸の測定が実用化に至り、これらを皮切りにアルコールセンサー、コレステロールセンサー、さらには免疫センサー、アレルギーセンサーが開発されている。電極法はマイクロマシン技術を基礎として改良され、迅速微量測定の手法として注目される。遺伝子分析、病原微生物の早期診断などの目的、マイクロ化による使い捨て電極の開発など、多様な応用が期待されて開発競争の中心になっている。
[古川俊之]
多層フィルム方式
写真フィルムの技術を応用した方式。支持層の上に拡散層、試薬層、色素層を重ねたスライドとよばれるものを使用する。血清試料などをスライドに滴下すると、順次反応が進んで色素が発色する。これを光電的に測定する。
これらの装置は、ほとんどがコンピュータによって制御され、単位変換や必要な補正の計算はもとより、集計表、グラフ、報告書の出力機能や精度管理機能まで備えるようになっている。したがって、自動化学分析装置は広義の工業ロボットと考えられる。大型で多項目分析を行う装置のほかに、卓上型で限られた項目の検査を自動処理する専用装置も多数開発されている。
[古川俊之]