自律神経剤(読み)じりつしんけいざい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「自律神経剤」の意味・わかりやすい解説

自律神経剤
じりつしんけいざい

意志によらないで体内を調整する自律神経に作用する薬剤総称。自律神経には交感神経と副交感神経とがあり、いずれも中枢から末梢(まっしょう)の奏効器官までの間にある節を介して刺激が伝導され、節前線維、節後線維に分けられている。自律神経はその化学伝達物質が明らかになるにしたがい、交感神経節後線維はアドレナリン作動性神経と名づけられ、交感神経節前線維、副交感神経節前および節後線維、さらに交感および副交感神経節はコリン作動性神経と名づけられた。

 自律神経に作用する薬物は、交感神経の興奮と抑制、副交感神経の興奮と抑制に働くもので、さらに細かく作用部位を示せば、それらの節前線維に作用するか、節後線維に作用するか、節に作用するものとなる。すなわち、アドレナリンと同じ作用をもっているアドレナリン作動薬(交感神経興奮薬)とその拮抗(きっこう)薬である抗アドレナリン作動薬(交感神経遮断薬)、コリンと同じ作用をもっているコリン作動薬とその拮抗薬である抗コリン作動薬、節刺激薬と節遮断薬に分類することができる。

 アドレナリン作動性神経にはα(アルファ)とβ(ベータ)の受容体があり、αはα1とα2、βはβ1とβ2の二つに分けられる。したがってα刺激薬とα遮断薬、β刺激薬とβ遮断薬に分けられるが、選択的に作用する薬物は特殊なものである。アドレナリン作動薬には、アドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリンノルエピネフリン)、フェニレフリン、エチレフリン、メタラミン、メトキサミンなどの昇圧薬、エフェドリンメチルエフェドリンイソプロテレノール、オルシプレナリン、テルブタリンなどβ刺激作用を利用した気管支拡張薬(喘息(ぜんそく)の薬)がある。抗アドレナリン作動薬としては、α遮断薬、β遮断薬があり、とくに、β遮断薬は不整脈や狭心症の治療薬、血圧降下剤として繁用されるようになった。α遮断薬もまた抗高血圧薬として開発されている。

 コリン作動薬には、アセチルコリンピロカルピンエゼリンネオスチグミン、アンベノニウム、ガランタミン、ピリドスチグミンなどがある。抗コリン作動薬には、硫酸アトロピン臭化水素酸スコポラミン、臭化メチルスコポラミン、臭化ブチルスコポラミンをはじめとする鎮けい剤、消化性潰瘍(かいよう)用剤がある。

 節刺激薬には少量のニコチンが有名であるが医療用には使用されない。

[幸保文治]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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