ニコチン(読み)にこちん(英語表記)nicotine

翻訳|nicotine

デジタル大辞泉 「ニコチン」の意味・読み・例文・類語

ニコチン(nicotine/〈ドイツ〉Nikotin)

タバコの葉に含まれるアルカロイドの一。無色の揮発性の液体で、空気に触れると褐色になる。独特の臭気と味をもち、水に溶けやすい。神経系に作用し、興奮もしくは麻痺まひさせる。猛毒。農業用殺虫剤などに使用。命名は新大陸原産でポルトガルで愛好されていたタバコを、フランスに持ち帰った外交官ジャン‐ニコにちなむ。化学式C10H14N2

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精選版 日本国語大辞典 「ニコチン」の意味・読み・例文・類語

ニコチン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] nicotine [ドイツ語] Nikotin ) タバコの葉に含まれるアルカロイドの一つ。化学式 C10H14N4 無色または淡黄色の油状液体。タバコの葉にアルカリを加え水蒸気蒸留してつくる。光や空気で容易に酸化され褐色に変色する。吸湿性が強く水には無制限に溶ける。有毒。硫酸・酒石酸の塩として農薬用殺虫剤に用いられる。
    1. [初出の実例]「『ニコチーン』の如き麻酔性猛毒物」(出典:官報‐明治一八年(1885)七月二〇日)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニコチン」の意味・わかりやすい解説

ニコチン
にこちん
nicotine

ピリミジンアルカロイドの一つで、1809年にタバコの煙より初めて単離され、ポルトガル大使で、喫煙の風習をフランスに導入し流行させたニコJean Nicot(1530?―1600)にちなんで命名された。純粋なニコチンは無色・無臭・揮発性の油状液体で、水、アルコールエーテルなどによく溶ける。沸点247℃。空気中では速やかに褐変する。この場合のタバコ臭は分解生成物による。

 ニコチンはナス科のタバコの葉にリンゴ酸塩もしくはクエン酸塩として2~8%程度含まれているが、これは根で合成されたものが道管液とともに運ばれてきて葉に蓄積したものである。また、キク科のタカサブロウやトクサ科のスギナなどの植物にも含まれている。ニコチンは、タバコの葉の粉末から水で抽出し、アルカリを加えて塩基を遊離させ、水蒸気蒸留して得られる。猛烈な神経毒で、交感神経および副交感神経の神経節を刺激し、のちに麻痺(まひ)させる。その作用はシアン化物と同じくらい速く、成人の経口致死量は0.06グラムで、これは1本の葉巻タバコに含まれる量にほぼ相当するが、喫煙による摂取量ははるかに少ない。喫煙の習慣はほとんど精神的な欲求によるもので嗜癖(しへき)はみられない。ただし慢性中毒になると、咽頭(いんとう)や喉頭(こうとう)などのカタルをはじめ、心臓障害、視力減弱、めまい動脈硬化などの症状がみられる。一方ニコチンは、ビタミンB1の合成原料として使われるほか、その硫酸塩は農業用殺虫剤として温室をいぶして駆虫するのに用いられる。

[上原亮太・馬渕一誠]

『米国保健省編、小田清一訳・著『アメリカ禁煙事情――米国式禁煙法とその評価』(1990・社会保険出版社)』『広島県医師会著『タバコやめますか 人間やめますか――これだけあるタバコの百害』(1992・ごま書房)』『死に至る薬と毒の怖さを考える会編『図解中毒マニュアル――麻薬からサリン、ニコチンまで』(1995・同文書院)』『ジョーダン・グッドマン著、和田光弘ほか訳『タバコの世界史』(1996・平凡社)』『沢田康文著『しのびよる身近な毒――O157、サリンからダイオキシン‥‥環境ホルモンまで』(1998・羊土社)』『日本禁煙推進医師歯科医師連盟編『ニコチン中毒ところかまわず』(2000・葉文館出版)』『宮里勝政著『タバコはなぜやめられないか』(岩波新書)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ニコチン」の意味・わかりやすい解説

ニコチン
nicotine


タバコNicotiana tabacumに含まれるアルカロイドで,C10H14N2,分子量162.23。タバコ葉中ではリンゴ酸塩またはクエン酸塩として存在し,乾燥含量は1~8%。光学異性体を有し,天然品はD型。タバコ以外にも数種の植物でその含有が知られている。なお,タバコの学名およびニコチンという言葉は,フランスへタバコを初めてもたらしたとされるJ.ニコの名にちなむ。

自律神経節への作用ははじめ興奮的,つづいて抑制的に作用する。消化管では副交感神経の支配が強いので,興奮作用により唾液・胃液分泌の亢進,吐き気・嘔吐をおこし,胃腸管の運動は亢進する。大量で麻痺をおこす。心臓も副交感神経支配が優位に働いているので,ニコチンによって,副交感神経の亢進による心拍数の減少の後,頻脈をおこす。交感神経支配の強い血管は収縮をおこすので,まず血圧は上昇するが,のち下降をきたす。副腎髄質に作用してアドレナリンを遊離し,血圧上昇をおこす。骨格筋では神経筋接合部に作用して,少量で筋肉の攣縮(れんしゆく)を,大量で麻痺をおこす。中枢神経でもはじめ興奮をおこし,呼吸を促進させるが,のち抑制される。薬理学の研究にはよく用いられる。なお,臨床では使用しないが,殺虫薬として用いられる。

ニコチンは粘膜からよく吸収され,強い急性中毒をおこすが,このような急性中毒には殺虫薬の誤用による例が多い。吐き気,流涎(りゆうぜん),下痢のほか徐脈後頻脈をおこし,血圧は上昇後下降し,呼吸麻痺をおこす。慢性中毒は喫煙でおこり,心悸亢進,神経過敏,不眠,不整脈,視覚障害をおこす。
タバコ
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化学辞典 第2版 「ニコチン」の解説

ニコチン
ニコチン
nicotine

(S)-3-(1-methylpyrrolidin-2-yl)pyridine.C10H14N2(162.24).ナス科タバコNicotiana tabacumリンゴ酸塩またはクエン酸塩として含有されるピリジンアルカロイドの代表.タバコ葉に石灰乳を加えて塩基を遊離させ,水蒸気蒸留して,留出液をエーテルで抽出する.また,合成のDL-ニコチンをD-酒石酸塩として分割し,天然品と同一のL-ニコチンを得ることができる.特異臭のある無色の液体.沸点247 ℃.1.0097.1.5282.-169°(水).pK1 6.16,pK2 10.96.吸湿性が強く,空気中で褐色にかわる.水,エタノールに可溶.中枢および末梢神経を興奮させ,腸および血管の収縮により血圧を上昇させる.さらに,おう吐,精神錯乱,けいれんを起こし,ヒトに対しては40 mg で死に至らしめる.気化ニコチンは毒性が強いので,硫酸ニコチンを石灰乳とまぜて殺虫用農薬や家畜用駆虫剤として用いる.LD50 50 mg/kg(ラット,経口).[CAS 54-11-5]

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百科事典マイペディア 「ニコチン」の意味・わかりやすい解説

ニコチン

タバコに含まれる主要なアルカロイドC1(/0)H14N2。分子量162.23。比重1.0097,沸点247℃。無色〜微黄色の揮発性油状液体で,不快臭,苦味がある。日光・空気により褐変。猛毒。タバコの乾燥葉にクエン酸塩やリンゴ酸塩として2〜8%存在。(図)→ニコチン中毒硫酸ニコチン
→関連項目アルカロイドタバコ(煙草)ニコチン・パッチ

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とっさの日本語便利帳 「ニコチン」の解説

ニコチン

ジャン・ニコ(Jean Nicot。一五三〇頃~一六〇〇)▼フランスの外交官。リスボン駐在大使を務めていた頃(一五五九~六一)、ポルトガルの探検家たちが米大陸からたばこの種子を持ち帰り始めていた。彼は一五六〇年にフロリダ産のたばこの苗を贈られ、それを栽培して自ら喫煙の効果を確認してから、葉を王太后カトリーヌ・ド・メディシスや貴族たちに贈った。帰国時には、たばこを大量に持ち帰って大儲けする。液体のニコチンは一九世紀初頭になって抽出され、彼を記念して命名された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニコチン」の意味・わかりやすい解説

ニコチン
nicotine

タバコに含有されるアルカロイドの一つ。無色,特異臭の液体。沸点 247℃。室温ではかなり揮発性で,容易に酸化されて褐色に変る。水,アルコール,エーテルに易溶。タバコの葉にはリンゴ酸塩,クエン酸塩として存在する。猛毒であって,神経中枢および末梢神経を興奮させ,腸,血管の収縮を起し,血圧の上昇を促す。硫酸塩は殺虫剤として用いられる。 (→ニコチン中毒 )  

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毛髪用語集 「ニコチン」の解説

ニコチン

主にタバコに含まれる成分。精神を安定させる作用もあるが、血管を収縮させるため、摂取し過ぎると毛根に酸素や栄養分が行き渡らず、育毛の妨げとなる。

出典 抜け毛・薄毛対策サイト「ふさふさネット」毛髪用語集について 情報

生活習慣病用語辞典 「ニコチン」の解説

ニコチン

たばこの葉に含まれる成分で、末梢神経や中枢神経を刺激し、血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。依存性、中毒性があります。

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栄養・生化学辞典 「ニコチン」の解説

ニコチン

 アルカロイドの一つで,タバコに含まれ,血圧上昇効果など薬理作用がある.

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世界大百科事典(旧版)内のニコチンの言及

【自律神経薬】より

…アセチルコリンは,副交感神経終末以外にも自律神経節,運動神経終末,中枢神経系などで興奮伝達物質として作動している。したがって,抗コリンエステラーゼ薬によってアセチルコリンの蓄積がおきた結果現れる作用は,副交感神経興奮作用(ムスカリン様作用とも呼ばれる)に加えて,自律神経節興奮や運動神経興奮に由来する作用(ニコチン様作用とも呼ばれる)および中枢神経系での作用が現れることもある。副交感神経興奮薬は,臨床的には,発汗,縮瞳,腸蠕動(ぜんどう)促進などの目的に使われる。…

【タバコ(煙草)】より


【作物としてのタバコ】

[種類,形状]
 ナス科タバコ属Nicotianaの植物で,通常一年草。タバコ属は現在65種が発見され,多くはニコチン,アナバシンなど数種類のアルカロイドを含んでいる。現在栽培されているのはそれらのうちニコチンを主アルカロイドとするタバコN.tabacum L.(英名tobacco)(イラスト)とマルバタバコN.rustica L.(英名Aztec tobacco)である。…

【ニコ】より

…なおリスボン滞在中ニコは新大陸渡来のタバコを入手して王母カトリーヌ・ド・メディシスに献上し,世上フランスにタバコを初めてもたらしたのは彼とされた。自らの辞典にもその名をもとにニコティアーヌnicotianeの名で説明があり,またニコチンの名も後に彼にちなんでつけられたものである。しかし事実は1556年ブラジル帰りの地誌学者・旅行家アンドレ・テベが持ち帰ったと考えられる。…

※「ニコチン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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