岩石などが自然に保持している残留磁気を自然残留磁気または自然残留磁化と呼ぶ。岩石は一般に地球磁場の影響を受けて磁化されており,岩石の磁気を測定することで過去の地球磁場の推定が可能である。自然残留磁化は種々の原因によって発生した残留磁化の総称であり,磁化獲得過程の違いによっていくつかに区別される。強磁性鉱物(磁鉄鉱,赤鉄鉱,チタン鉄鉱,チタン磁鉄鉱など)が強磁性を失う温度(キュリー点)より高温から磁場中で冷却されたときに獲得する磁化を熱残留磁化と呼ぶ。溶岩が冷えて固まるとき,あるいは陶器,土器,焼釜,暖炉などが高温から冷却されたときに獲得する磁化はこの例である。一般に強く磁化されており安定である。化学変化が生じたときに獲得される残留磁化は化学残留磁化と呼ばれ,例えば,磁場中で磁鉄鉱のキュリー点より低い温度で赤鉄鉱が磁鉄鉱に還元されるときに生ずる残留磁化や,水酸化鉄から赤鉄鉱ができるときに獲得される残留磁化がこの例である。化学残留磁化は概して安定である。磁場中で圧力をかけ,再び圧力を取り去ったとき,加圧前より磁化が増加する。この強度は圧力とともに増加する傾向にあることが報告されている。このようにして獲得される残留磁化を圧力残留磁化またはピエゾ残留磁化と呼んでいる。強磁性鉱物粒子が地球磁場中で沈殿,堆積するとき,外部磁場方向を向いた残留磁化をもつ。この磁化を堆積残留磁化と呼ぶ。以上が自然残留磁化のおもなものである。このほか自然残留磁化を測定する上で問題となる残留磁化には次のものがある。温度が一定のとき外部磁場の作用により作られる残留磁化を等温残留磁化,非常に強い磁場を与え取り去ったときに獲得される残留磁化は飽和等温残留磁化と呼ばれる。さらに,温度を一定とし,試料を磁場中に長時間放置するとその磁場方向に時間の対数に比例するような磁化が生じてくる。このようにして作られた残留磁化を粘性残留磁化という。一定の直流磁場をかけた状態で交流磁場の振幅を設定値からゼロまでもっていったとき残留磁化が発生する。これが非履歴残留磁化で,例えば,地球磁場(直流磁場)を打ち消さずに交流消磁を行ったとき,あるいは岩石に落雷したとき,落雷の電流によって生ずる磁場が原因となった残留磁化である。直流磁場がない場合でも,交流消磁中の回転が原因となって消磁すべき岩石に,逆に残留磁化を与えることがある。この残留磁化を回転残留磁化と呼び,岩石の磁化強度が非常に小さな場合に問題となることがある。上に述べた残留磁化のうち,しばしば測定対象となるのは熱残留磁化,堆積残留磁化であるが,いくつかの残留磁化の効果が重なっていることを考慮した上で,自然残留磁化を調べなければならない。
磁力計を用いて岩石のもつ磁化の強さ,方向を測定し,地層の傾きや試料採集方向を補正して残留磁化を求める。ふつう一地点から数個以上の試料を採集して測定を行う。残留磁化としては安定な磁化成分ばかりでなく,非常に不安定な磁化成分もある。自然残留磁化の強度,方向を年代と対比したり,年代推定に用いるためには,自然残留磁化が地質時代を通じて安定に存在している必要がある。この安定度をテストするために交流消磁,熱消磁の方法がおもに用いられる。
執筆者:西谷 忠師
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