自然残留磁気(読み)シゼンザンリュウジキ(英語表記)natural remanent magnetization

デジタル大辞泉 「自然残留磁気」の意味・読み・例文・類語

しぜん‐ざんりゅうじき〔‐ザンリウジキ〕【自然残留磁気】

自然残留磁化

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改訂新版 世界大百科事典 「自然残留磁気」の意味・わかりやすい解説

自然残留磁気 (しぜんざんりゅうじき)
natural remanent magnetization

岩石などが自然に保持している残留磁気を自然残留磁気または自然残留磁化と呼ぶ。岩石は一般に地球磁場の影響を受けて磁化されており,岩石の磁気を測定することで過去の地球磁場推定が可能である。自然残留磁化は種々の原因によって発生した残留磁化の総称であり,磁化獲得過程の違いによっていくつかに区別される。強磁性鉱物(磁鉄鉱赤鉄鉱チタン鉄鉱,チタン磁鉄鉱など)が強磁性を失う温度(キュリー点)より高温から磁場中で冷却されたときに獲得する磁化を熱残留磁化と呼ぶ。溶岩が冷えて固まるとき,あるいは陶器土器,焼釜,暖炉などが高温から冷却されたときに獲得する磁化はこの例である。一般に強く磁化されており安定である。化学変化が生じたときに獲得される残留磁化は化学残留磁化と呼ばれ,例えば,磁場中で磁鉄鉱のキュリー点より低い温度で赤鉄鉱が磁鉄鉱に還元されるときに生ずる残留磁化や,水酸化鉄から赤鉄鉱ができるときに獲得される残留磁化がこの例である。化学残留磁化は概して安定である。磁場中で圧力をかけ,再び圧力を取り去ったとき,加圧前より磁化が増加する。この強度は圧力とともに増加する傾向にあることが報告されている。このようにして獲得される残留磁化を圧力残留磁化またはピエゾ残留磁化と呼んでいる。強磁性鉱物粒子が地球磁場中で沈殿,堆積するとき,外部磁場方向を向いた残留磁化をもつ。この磁化を堆積残留磁化と呼ぶ。以上が自然残留磁化のおもなものである。このほか自然残留磁化を測定する上で問題となる残留磁化には次のものがある。温度が一定のとき外部磁場の作用により作られる残留磁化を等温残留磁化,非常に強い磁場を与え取り去ったときに獲得される残留磁化は飽和等温残留磁化と呼ばれる。さらに,温度を一定とし,試料を磁場中に長時間放置するとその磁場方向に時間の対数に比例するような磁化が生じてくる。このようにして作られた残留磁化を粘性残留磁化という。一定の直流磁場をかけた状態で交流磁場振幅を設定値からゼロまでもっていったとき残留磁化が発生する。これが非履歴残留磁化で,例えば,地球磁場(直流磁場)を打ち消さずに交流消磁を行ったとき,あるいは岩石に落雷したとき,落雷の電流によって生ずる磁場が原因となった残留磁化である。直流磁場がない場合でも,交流消磁中の回転が原因となって消磁すべき岩石に,逆に残留磁化を与えることがある。この残留磁化を回転残留磁化呼び,岩石の磁化強度が非常に小さな場合に問題となることがある。上に述べた残留磁化のうち,しばしば測定対象となるのは熱残留磁化,堆積残留磁化であるが,いくつかの残留磁化の効果が重なっていることを考慮した上で,自然残留磁化を調べなければならない。

磁力計を用いて岩石のもつ磁化の強さ,方向を測定し,地層の傾きや試料採集方向を補正して残留磁化を求める。ふつう一地点から数個以上の試料を採集して測定を行う。残留磁化としては安定な磁化成分ばかりでなく,非常に不安定な磁化成分もある。自然残留磁化の強度,方向を年代と対比したり,年代推定に用いるためには,自然残留磁化が地質時代を通じて安定に存在している必要がある。この安定度をテストするために交流消磁,熱消磁の方法がおもに用いられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自然残留磁気」の意味・わかりやすい解説

自然残留磁気
しぜんざんりゅうじき
natural remanent magnetization

略称 NRM。岩石が自然状態でもっている磁気のこと。特に火山岩のもつ自然残留磁気は大きい。これは火山岩が生れるときに,高温のマグマから冷却するに伴い,強い熱残留磁気を獲得するためである。堆積岩も弱いながら自然残留磁気をもつ。これは水底 (海底) に岩石の粉が沈殿するとき,強磁性微粒子が地磁気の向きに磁化の向きをそろえて堆積するために生じるものである。変成岩の場合には,最後に熱変成を受けてキュリー温度になったときに熱残留磁気を獲得する場合もあるし,低温でも強磁性鉱物が化学変化や再結晶作用などで生じたときに,そのときの地球磁場を記録する磁化をもつ場合がある。また自然の岩石ではないが,古代の人々が煉瓦や土器を焼いた窯跡の土や,煉瓦や土器もその時代の地磁気を反映した自然残留磁気をもっている。このような岩石や考古学的資料の自然残留磁気を使って過去の地磁気の変化を推定することができる。これらから,地磁気の向きが地質時代を通じて何回も逆転したこと,大陸が移動したことなどが明らかにされた。

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百科事典マイペディア 「自然残留磁気」の意味・わかりやすい解説

自然残留磁気【しぜんざんりゅうじき】

岩石が過去の地球磁場の影響で磁気を帯び,現在もそれを保持しているもの。古地磁気学はこれの測定を基本的手段として成立している。火山岩の場合は,地球磁場の中で冷え固まるときにキュリー点を通過した際,岩石中の磁鉄鉱などの強磁性物質が熱残留磁気を獲得する。その強さは1cm3当り10(-/)2cgs電磁単位程度。熱変成岩の場合も同様にして帯磁する。堆積岩の場合は堆積物の粒子が沈殿するときに磁性をもつ粒子が地球磁場の作用を受けてその方向に向きをそろえるために生じると考えられてきたが,最近は脱水時に堆積物の粒子が回転・固定する場合も考えられている。その強さは火山岩の場合の100分の1から1万分の1程度。古いかまどや炉などの遺跡に残された焼土も熱残留磁気を有し,それからその焼かれた時代の地磁気を調べることができ,この手法は考古地磁気学と呼ばれる。

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