改訂新版 世界大百科事典 「興業意見」の意味・わかりやすい解説
興業意見 (こうぎょういけん)
1884年農商務省大書記官前田正名らによって編集された殖産興業に関する論策で,当時の産業計画の根幹となった歴史的文献。本書は農談会,勧業諮問会の開催や農区視察員の派遣などを通じて準備が進められたもので,秩禄,金禄公債の所有の移動,士族の商法および帰農開墾の失敗事業,土地売買解禁後の農地移動状況,明治前期の物価変動状況,地租改正後の農家の経済状態など,当時を知るうえでの貴重な資料が含まれている。国立国会図書館憲政資料室収蔵の未定稿によれば,当初の計画は,総目録を含め26冊の予定であった。しかしその後大蔵省との間に意見の対立が生じ,手直しの後,美濃判和綴30巻(定本)として刊行され,緒言,現況,原因,参考,精神,国力,地方,方針の8編より成る。未定稿と定本の内容上の相違は,前者の随所に見られた松方財政に対する批判的論調が弱められたこと,前者の論策のかなめとされた興業貸付けの部分(未定稿第25冊,方法乙ノ部)が,全文削除されたことである。紙幣整理の遂行と軍備・戦略産業(鉄道,海運など)の充実を最重視した松方財政は,一般勧業貸しを軸とした《興業意見》を強く拒絶したのである。
執筆者:山本 弘文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報