舞踊譜(読み)ぶようふ(英語表記)dance notation

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

舞踊譜
ぶようふ
dance notation

舞踊の記譜。舞踊の動きを紙面に記号を用いて記録したもの。古代エジプト人は象形文字で舞踊を記述したといわれ,記譜は古代から行なわれていたと考えられる。ヨーロッパで最初の記録は 15世紀のもので,舞踊の複雑化に応じて記譜法も発達した。用いる記号によって,略語,踊跡,棒図形,音符,数理的形式,抽象的記号の 6種類に大別される。略語によるものに,トアノ・アルボーの『オルケゾグラフィー』Orchésographie(1588)に記述された記譜法がある。これは楽譜のひとつひとつに文字で動きの記号が書かれていた。踊りのパターンが一段と複雑化すると,踊跡による方法が考案され,ラウル・アジェ・フイエの『振付術または人物、図、指示記号による舞踊記譜法』Choréographie; ou, l'art de décrine la dance(1700)が書かれた。ルイ14世時代にはポジションを棒図形で示す方法が生まれた。その代表的なものがアーサー・M.サン=レオンの『舞踊譜』La Sténochorégraphie(1852)である。この方法は動きの連続や流れの正確な表示に欠けたため,楽譜を併用する方法として考えられた。マリインスキー劇場バレエ団の舞踊家ウラジーミル・イワノビッチ・ステパーノフは『人体動作のアルファベット』Alphabet des mouvements du crops humain(1892)でこれを完成させ,マリウス・プティパらの名作『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』などが記録され,のちに他国での再演に貢献することとなった。最も知られるルドルフ・フォン・ラバンの抽象記号による方法(→ラバノテーション)は,『舞踊記録』Schrifttanz(1928)で発表された。その後科学的分析による数理的形式などへと発展したが,最も簡便な棒図形式に工夫を加えたベネッシュ夫妻による方法もある。これはイギリスのロイヤル・バレエ団で用いられ,同付属バレエ学校の必修科目となっている。日本舞踊では,口伝による伝授が多く,一般化された記譜法はまだつくられていない。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

舞踊譜
ぶようふ
dance notation

舞踊の記譜。舞踊を記録することは古くから試みられ、古代エジプトでは象形文字で舞踊を記述したといわれる。今日「振付け」を意味する英語choreographyは、ギリシア語のchoros(群舞)とgraphios(描く)からきており、「舞踊を記録する」という原義である。[市川 雅・國吉和子]

歴史

ヨーロッパではアルボーThoinot Arbeau(1519―95)が『オルケソグラフィー』(1589)を著し、そのなかには楽譜の音符に対応して動きが文字記号で示されている。また、フイエRaoul Auger Feuillet(1675―1730)の『コレオグラフィー、または舞踊記譜法』(1701)には、床に描かれた舞踊の図形が記録されている。19世紀にはサン・レオン、ステパノフVladimir Ivanovich Stepanov、20世紀にはR・V・ラバン、ベネシュRudolph Beneshらによって多くの記譜法が考え出された。とくにラバンの考案したラバノテーションLabanotationは、汎用(はんよう)性と正確さにおいて現在も広く利用されている。
 日本では雅楽(舞楽)が早くから「舞譜名目」によって譜語を整理し、『歌(かぶ)品目』(1822)などに舞譜が書かれている。能楽では、笛の唱歌や謡本(うたいぼん)の詞章に舞の型が書かれ、「型付」という、文章による動きの指示が記録されている。近世日本舞踊には『絵本踊(おどり)づくし』(1775)が座敷舞の簡単な図解を記し、『踊独稽古(おどりひとりけいこ)』(1815)には、葛飾北斎(かつしかほくさい)による連続した人体スケッチに詞章を添えた教則本がある。いずれも技法は記号化されず、人体スケッチによる動きの覚書きであった。記号化が試みられるのは、昭和になってからで、西川扇五郎(せんごろう)の「舞踊譜」をもとにして東京国立文化財研究所が体系化した『標準日本舞踊譜』(1960)がある。[市川 雅・國吉和子]

現代の舞踊譜

今日ではコンピュータ画像の進歩によって、人間の身体の動きのすべてを、ぶれやあいまいな動きに至るまで、デジタル画像で再現できる画期的な技術が開発された。M・カニンガムはコンピュータ・ソフト「ライフ・フォームズ」を用い、仮想空間で動きを操作することによってダンサーの動きの可能性を広げた。また、W・フォーサイスは動きをコンピュータで分析し編集することによってダンサーの創作力を開発する新しい考え方を振付けに導入した。また、ビデオの普及によって映像による記録が身体運動学の分析方法として広く活用されるようになっている。そのほか特殊なものとして、1998年に公開された土方巽(ひじかたたつみ)による記録がある。これは舞踏家のイメージを喚起する土方のことばと、姿形の素材となる絵画の断片から構成されたノートで、基本的には非公開を前提として書かれたものである。[市川 雅・國吉和子]
『東京国立文化財研究所編『標準日本舞踊譜』(1960・創芸社) ▽ルドルフ・フォン・ラバン著、神沢和夫訳『身体運動の習得』(1985・白水社)』

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世界大百科事典内の舞踊譜の言及

【宮廷音楽】より

…文字のある社会の場合は,他の芸術よりも宮廷音楽・舞踊の方が,記されたものを用いることが多いように思われる。歌詞や楽譜はいうまでもなく,舞踊譜も宮廷と結びついていることが多い。ヨーロッパの宮廷舞踊においては,ルイ14世宮廷の名人ボーシャンPierre Beauchamp(s)(1636‐1705)によって1680年代から舞踊譜が使われ,フイエRaoul‐Auger Feuillet(1675ころ‐1710)が《コレオグラフィー(振付)あるいは舞踊を記述する技術》(1700)として公刊している。…

※「舞踊譜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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