マリウス(その他表記)Gaius Marius

デジタル大辞泉 「マリウス」の意味・読み・例文・類語

マリウス(Gaius Marius)

[前157ころ~前86]古代ローマの軍人・政治家。騎士身分から執政官となり、私兵をもってユグルタ戦争を平定。民衆派の首領として、閥族派スラと対立した。

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改訂新版 世界大百科事典 「マリウス」の意味・わかりやすい解説

マリウス
Gaius Marius
生没年:前157?-前86

古代ローマの将軍,政治家。イタリア中部,アルピヌム(現,アルピーノ)近辺在住のローマ騎士の子。前119年に護民官となり,民会投票者への門閥貴族の圧力を排除する〈投票法〉を成立させた。前112年にユグルタ戦争が起こると,前109年にコンスル(執政官),メテルスの副官となり,前107年には彼自身コンスルとなってメテルスに代わる軍司令官になったが,出陣の際兵制改革を行った。すなわち,従来ローマでは一定基準以上の財産をもつ中小農民が軍隊の基幹をなしていたが,時とともにこの社会層が没落し,兵士になる財産資格もしだいに下げられた。マリウスは今やこの財産制限にとらわれず,無産市民の志願兵を採用した。しかも彼らは将軍と私的な恩義関係で結ばれ,ここにローマ共和政時代末政治史の重要要素である私兵が成立した。

 このような私兵を含む軍隊を率いてユグルタ戦争に勝利を得た彼は,前104-前101年の間にイタリア北方を脅かすテウトニ族をアクアエ・セクスティアエ(前102)で,キンブリ族をウェルケラエ(前101)で破った。ローマに戻って前100年のコンスルになりポプラレス(民衆派)と結んだが,やがてこれを鎮圧する側にまわった。前90年に同盟市戦争で功あり,前88年にはミトリダテス戦争の軍指揮権をめぐってコンスルのスラと争い,続く混乱期にコンスルのキンナと結んでスラ派に弾圧を加えた。前86年に7たびコンスルになったが就任してほどなく没した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マリウス」の意味・わかりやすい解説

マリウス
Marius, Gaius

[生]前157頃.アルピヌム
[没]前86.1.13. ローマ
共和政末期のローマの将軍。閉鎖的貴族支配階級のなかにプレプス (平民) 出身者として割込むことに成功し,新興騎士階級 (エクイテス ) の代表として閥族派 (オプチマテス ) と対決した新しい型の政治家。7度執政官 (コンスル ) をつとめた (前 107,前 104~100,前 86) 。スキピオ・アエミリアヌス (小スキピオ) に従いヌマンチア攻略に参加。前 107年ヌミディア王ユグルタを破った。このとき無産市民を徴募,訓練したが,この軍制改革は有力者による私兵養成を意味し,以後ポンペイウス (大ポンペイウス) ,ユリウス・カエサルらに引継がれた。前 104~101年ゲルマン人を制圧。前 90年以後同盟市戦争に参加。後輩の閥族派 L.スラと対立し,前 88年スラに追われてアフリカに逃れ,L.キンナと結んで翌年スラが東方におもむいている留守中,ローマに帰還。同盟市にローマ市民権を与え,スラ派に対して激しい粛清を行なった。前 86年7度目の執政官となったが,復讐におびえつつ病死した。

マリウス
Marius

フランス劇作家 M.パニョールの戯曲。4幕。 1929年初演。作者の故郷に近いマルセイユの一軒のバーを舞台に,そこに集る素朴で純情な人々の生活を,方言と笑いを巧みに用い,郷土色豊かに描き出している。マリウスの帰郷を主題とする『ファニー』 (1931) ,その父の死を中心とする『セザール』 (36) を加えてマルセイユ三部作が完成し,映画化も成功して,第1,2次両世界大戦間の風俗喜劇の代表作となった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリウス」の意味・わかりやすい解説

マリウス
まりうす
Gaius Marius
(前157ころ―前86)

古代ローマの政治家。アルピヌムArpinum近郊の騎士身分の出身。名門メテルルス家との縁で政界に進出。ユグルタ戦争(前111~前105)に副官として従軍し、属州アフリカの実業家層の支持を得てコンスル職に立候補し、当選(前107)。プロレタリー(無産市民)層からの募兵制による新軍を使ってこの戦争に勝利を収め、凱旋(がいせん)(前104)した。続いてキンブリ・テウトニ人の撃退にも成功し、民衆派の領袖(りょうしゅう)として絶大な権力を確立するに至った。紀元前100年に六度目のコンスル職についたが、彼の退役兵の植民問題などをめぐってノビレス(顕職貴族)との関係が険悪化した。他方、植民問題での協力者である護民官サトゥルニヌスの民衆派的改革遂行に対して、これを弾圧した。同盟市戦争(前91~前87)期に入ると、閥族派でありながら彼と同様になかば私兵的な軍事的クリエンテーラを基盤とするスラからの深刻な挑戦を受けた。両者はミトリダテス戦争の指揮権をめぐって争い、マリウスはいったんこれを手中にしたが、東方から急遽(きゅうきょ)帰還したスラのローマ進軍により敗走。退役兵の植民先の一つであるアフリカに逃れて勢力を蓄え、キンナの台頭を機にローマに帰還。キンナとともに前86年のコンスルとなり、反対派の大弾圧を行ったが、同年病死した。なお、妻ユリアはカエサルの父の姉妹である。

[栗田伸子]

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百科事典マイペディア 「マリウス」の意味・わかりやすい解説

マリウス

古代ローマの将軍,政治家。農民の出。7度コンスルとなる。ユグルタ戦争に勝ち,またキンブリ族やテウトニ族を撃退。その間市民兵制から職業軍人制への軍制改革を行い,以後の軍隊私兵化の端を開いた。ミトリダテス戦争の軍指揮官の地位をめぐりスラと争い,彼の出征中にスラ派の大粛清を行ったが,スラの帰国直前病死。
→関連項目チュートン人

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「マリウス」の解説

マリウス
Gaius Marius

前157頃~前86

古代ローマの将軍,政治家。農民出身。7度コンスルとなる。ポプラレスを背景にスラと対立した。ユグルタ戦争を平定し,キンブリ・テウトニ族の侵入を防いだ。市民兵制から職業軍人制への軍制改革を行った。前88年ミトリダテス討伐権をめぐってスラと激しく争い,前87年ローマ市でスラ派に対し大殺戮を行ったが,翌年病死した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「マリウス」の解説

マリウス
Gaius Marius

前157〜前86
古代ローマの軍人・政治家
民衆の支持を背景に7回コンスルとなり,その間,傭兵制を導入し,ゲルマン諸族を平定して名をあげた。以後も平民派のリーダーとして政界で活躍したが,スラとの政争中に病死した。

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367日誕生日大事典 「マリウス」の解説

マリウス

生年月日:1573年1月20日
ドイツの天文学者
1624年没

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世界大百科事典(旧版)内のマリウスの言及

【エクサン・プロバンス】より

…湧泉にも由来して,この土地は〈セクスティウスの水Aquae Sextiae〉と称され,現名の語源となった。前2世紀末,北方のゲルマンの一部族テウトニ(チュートン)人が南下してローマの支配を脅かし,ローマの統領マリウスは軍勢を率いて迎えうった。ローマ人とゲルマン人の衝突のうち,もっとも初期のものである。…

【キンナ】より

…古代ローマ共和政時代末期の政治家。高貴な家柄の出身であるが,ポプラレス(民衆派)の立場に立ち,マリウススラの対立の際には前者を支持した。前87年コンスル(統領)になり,スラもこれを認めたが,スラがミトリダテス戦争遂行のため東方に去ったあと,露骨に反スラ政策を展開したのでローマを追われた。…

【ユグルタ】より

…開戦早々名門出身のコンスル,ベスティアLucius Calpurnius Bestiaとの間に講和が成立したが,これはユグルタによる貴族買収との疑惑を呼び,グラックス兄弟の改革圧殺以来くすぶっていたローマ民衆の反貴族感情に火をつけ,疑惑の解明と戦争継続を叫ぶ平民派(ポプラレス)の台頭をもたらした。ユグルタは証人としてローマに召喚されるが,尋問に至らぬまま帰国,戦争は再開され,彼は農民,辺境遊牧民などの支持を得てメテルスQuintus Caecilius Metellus Numidicus,マリウス指揮下のローマ軍を相手に善戦したが,同盟者マウレタニア王の裏切りでローマに引き渡され(前105),処刑された。戦後は親ローマ的な王族が王位に就けられ,王国内にはマリウスの部下の退役兵が大量に植民され,ヌミディアの独立は形骸化する。…

【ローマ】より

…このためローマは,北アフリカではヌミディア王ユグルタとの戦争(前112‐前105)に苦戦し,ゲルマン人のテウトニ族,キンブリ族の侵入の前にも相次いで敗れ(前114,前113),ついに前105年アラウシオの戦でキンブリ軍のために全滅した。名門出身ではない新人のマリウスは将軍となってユグルタを降し,また,貧民から志願兵を徴募するという兵制改革を行ってゲルマン人を敗退させることに成功した(前102,前101)。 この時期には地中海地方各地で奴隷反乱が続発した。…

※「マリウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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