航空保険は,航空機だけでなく航空貨物,空港の諸施設から人工衛星までを対象としている。そして,物損害(機体,装備品,貨物等),賠償責任(乗客・貨物・第三者に対する責任,空港管理者,航空機製造業者・修理業者・保管業者の責任),傷害(搭乗者・乗務員),および捜索救助費等の費用リスクなどをカバーする多種類の航空保険がある。最も一般的なのが航空機を対象とする航空機保険であるが,これは次の5種類からなる。
(1)航空機保険(機体保険) 墜落・衝突・接触・転覆・沈没・火災・爆発・盗難その他偶然な事故による被保険航空機自体の損害を塡補(てんぽ)する。(2)第三者賠償責任保険 航空機の運航,管理に起因して乗客以外の第三者の生命・身体を害したり財物を損壊したことによって被保険者が法律上の賠償責任を負うことによる損害を塡補する。(3)乗客賠償責任保険 航空機の運航,管理に起因して,航空機に搭乗中(乗降中を含む)の乗客の生命・身体を害したり乗客所有の財物を損壊したことにより,被保険者が法律上の賠償責任を負うことによる損害を塡補する。(4)捜索救助費保険 航空機が遭難しまたは行方不明となったために必要とされる捜索費用,搭乗者の救助,移送,損害防止費用,残存物運搬除去費用を塡補する。(5)搭乗者傷害保険 航空機に搭乗中(乗降中を含む)の者が急激・偶然な外来の事故によって身体に傷害を被った場合に保険金を支払う。
航空保険は1910年イギリスにおいて引き受けられた第三者に対する賠償責任保険が世界最初のものである。日本では,1920年代に東京海上火災保険による航空傷害保険の引受けがあったが,本来の航空保険としては1936年に東京海上ほか2社による機体保険,第三者賠償責任保険,運送保険の事業免許が始まりである。近年は航空産業の発展に加えて企業等の自家用機の増加などもあって,航空保険はいわば大衆化してきている。航空保険は,例えばジャンボ機であれば高額の機体が数百人もの乗客を乗せて大都市の上空を飛行するなど,リスクが巨大になる。したがってリスク分散と平均化を図る必要が大きく,各国とも再保険プール等を形成して引受けを行っている。さらに海外再保険に依存せざるをえず,プールでの保有を超えるものについては各国プール間で再保険交換が行われるなど,航空保険の経営は国際的なものになっている。日本では,個々の会社が元受けしたものを原則として全額をプールに再保険し,ここで国際市場に再保険手配をするとともに,会員が所定の割合で責任を負うという形式をとっている。なお,航空保険の一種として人工衛星保険があり,人工衛星が損傷したり,打上げ成功条件を達成できなかったことによる損害,あるいは第三者に対する損害賠償責任を対象としている。
国際航空運送人の責任についてはワルソー条約,ヘーグ議定書,モントリオール協定などがあり,無過失責任,責任限度額などを定めている。国際航空運送協会による取決めもあるが,一般に航空運送にともなう賠償リスクは企業の負担能力を超える巨大なものとなってきている。したがって航空保険の利用は,こんにち航空運送事業の経営上不可欠の要件になっている。
→国際民間航空条約
執筆者:高木 秀卓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
航空機に関連して生ずる損害の填補(てんぽ)を目的とする保険の総称。日本で行われている基本的な航空保険は、機体自体に生じた損害を填補する機体保険、航空輸送業者が機外の第三者に対して負担する賠償責任を担保する第三者賠償責任保険、乗客に対する賠償責任の負担を担保する乗客賠償責任保険である。これらの保険は一保険証券で包括的に契約することも、個別に契約することもできる。契約は普通1年を期間とする年契約であるが、特定期間に対する短期契約もなされる。また、航空保険は、航空機の位置(空中、地上、水上)を問わず、航空機の使用、利用、管理、製造、修理などに関連して生じるいっさいの危険を対象とする。なお、航空機による危険はその危険度が高く、そのうえ一事故による損害が巨大となるので、安定した運営を行うため、全損害保険会社による共同的な引受けと、海外市場での再保険の消化を目的とする特殊な再保険機構が設けられているが、諸外国でも共同引受機構の設置が一般的であり、相互に再保険の交換などを行うことにより、全世界的な引受体制が形成されている。
[金子卓治]
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