船舶自動化(読み)せんぱくじどうか

改訂新版 世界大百科事典 「船舶自動化」の意味・わかりやすい解説

船舶自動化 (せんぱくじどうか)

船舶運航を自動化すること。自動化は機械化の部分といわれているが,主として人間が受けもっている判断機能や監視機能の機械化として考えるのが一般的であろう。

 自動化が船舶にとってなぜ必要かを見ると,おもなものとして次の四つがあげられよう。第1は高いレベルでの安全と能率を調和させることである。このことの必要の背景は,船舶数の増大や大型化に伴って運航者にかなりの負担をかけてきていることがあげられ,安全を確保し,かつ運航の能率を高くすることが困難となってきているので,運航者の処理能力をこえないようにするために自動化を導入する必要があるといえる。第2の必要性としては経済性があげられよう。これは船舶という一つのシステムの中で,人間が受けもつのが経済的なのか,あるいは機械に受けもたせたほうが経済性があるのかの問題であるが,日本では,人員削減ができるのであれば自動化をしたほうが経済的であるとの判断が強い。第3の必要性は労働環境の改善,整備があげられる。人間に監視業務を長時間課すことは,人間工学的に見ても疲労による錯誤などが生じて問題である。このような過酷ともいうべき監視業務は,自動化によって軽減していかなければならないと考えられる。第4の必要性は高資質の船舶運航者の再生産があげられる。船舶の労働環境,待遇などがよくなければ,高資質の労働力は集められない。自動化は必要に応じて行うことが望ましいが,自動化をある程度することによって船舶を魅力ある労働の場とし,高資質な運航者を集めていくことも必要となってきた。

自動化の変遷の過程を大別すれば,機能モジュール開発期,遠隔制御導入期,計算機制御期およびシステム開発期の四つとなる。

 機能モジュール開発期の代表例には自動操舵装置オートパイロット)があげられる。このオートパイロットは,自動制御を実用化した装置としての地位も高い。1920年ころスペリー社がジャイロパイロットの名で世に出し,全世界的に広まったものである。その後,遠隔制御の導入期になるまでは,目だった自動化は行われなかったが,61年に金華山丸が機関の遠隔制御を採用した。自動化ではあまり大きな進歩とはいえないが,遠隔監視を行った点で,自動化に向かう大きな一歩として重視してよいものと考えられる。またこの遠隔制御は,データの記録をも必要としたので,計算機制御への序章ということができる。

 1960年代の後半の計算機制御期に入ると,他の産業界での計算機化の波が船舶にも及び,船舶の特定の機能についての計算機による自動化が,星光丸をはじめ,日本,ヨーロッパの船でなされるようになった。ここでの自動化は主としてオンライン航法計算,オートパイロット,主機・補機制御,積荷制御などがあげられる。しかし内容的には計算機によっての制御ではあるが,一つ一つの機能を自動化するという,いわゆる部分制御といってよい段階であった。主機および補機制御の自動化とマイクロプロセッサー発達で,この段階で後述するM0(エムゼロ)方式の出現が見られるようになった。70年代の後半になると,マイクロプロセッサーが各装置の処理を受けもつ形で導入されてモジュール単位の自動化が進められ始め,船舶にもマイクロプロセッサーが多用化され始めた。例えば電波航法用のNNSS(Navy Navigation Satellite Systemの略)受信機,オメガ受信機,ロラン受信機およびデッカ受信機などの航法装置がまず実用化した。いずれも測定(受信)手続を自動化したもので,位置の線だけでなく位置をも緯度経度表示で得られるようにしている。またこれらの受信機は,信号の処理まで行うので,場合によれば,運航者以上の働きをしてくれる。同様な例はレーダー装置における信号処理およびデータ処理をマイクロプロセッサーに受けもたせたり,あるいは機関監視装置の諸機能をマイクロプロセッサーにより処理させたりする方式に見ることができる。いずれにしても処理装置であるマイクロプロセッサーを意識させないで,計算機能を完全に装置の一部に埋没させた点が自動化を進めるうえで評価できる点である。

 システム開発期は,船舶をシステムとしてとらえ,船舶の運航機能の全体制御を中心に自動化を図ろうとする段階で,現在から将来に向かってのものということができる。

機関の遠隔操作可能船が30%をこえ,機関の自動化の対象範囲が増大したことで,機関室での夜間当直をしない体制の確立の機運が世界的に出てきた。日本でも1965年にM0の規格ができ,現在では一般的な船舶の標準規格となってきた。M0船は,船級協会のM0資格をもった船で,機関室に当直員がいなくとも,安全性を確保するための設備を備え,常用の航海状態で連続24時間以上機関の運転が可能となっている船ということができる。具体的には計算機によって主機などの状況を走査監視し,それを記録し,異常があれば,記録するとともに,担当機関士に警報で知らせる機能を保有することで,機関室に当直員をおかなくてもよい船を指している。

 このような方式をM0方式というが,M0船の出現の技術的な背景として,機関の遠隔操作,機関の無人監視の信頼性の向上および監視の結果によって発動する警報器の自動化,機関室の防火・消火装置の質的向上,補機の自動運転の実現および船内通信系統の充実があげられる。一般に,M0状態となるのは,大洋航海中や停泊中が主となっており,変動の激しい出入港や狭水道などは外されている。

船舶運航の自動化のための機器は,オートパイロット,衝突防止装置,機関監視装置などさまざまなものがある。そのうちで代表的な衝突防止装置および機関監視装置について概要を示すこととする。

 衝突防止装置は,基本的にはレーダーを用いて船舶の存在を探知し,その相対位置を隔時観測して移動情報を取得し,衝突防止に役だてる装置である。現在の装置は,他船の映像を捕捉(ほそく)しその情報処理まではある程度自動化されており,その範囲では一応実用のレベルに達している。このレベルのものをARPA(automatic radar plotting apparatusの略)と呼んでおり,現在の衝突防止装置の主流をなしている。しかしいわゆる避航の自動化が十分ではなく,単に他の状況は,それまでの状態を保ちつづけているという前提のときの解しか与えてくれない。避航の完全自動化は今後の解決していかなければならない大きな問題となっている。

 機関監視装置は,M0船をはじめ,運航者数の少ない船の機関室のもつ機能の自動化に不可欠のものである。主機関および補機の運転状態に関して,それぞれの部分の温度,圧力などにより,計測・監視および警報表示を行えるようにした装置で,一般には検出部,監視部,警報表示部および電源部から構成されている。検出部の機能は,各機器の温度,圧力その他を検出すること,監視部の機能は,得られた機器に関するデータが警報設定値をこえているかどうかを調べ,その内容に従った表示を行うことである。警報表示部は機器の状態が異常であれば,可視あるいは可聴の警報を発する機能をもっている。これらはいずれもマイクロプロセッサーの助けを借りて行っている。また,この機関監視装置の故障に対応すべく自己診断機能を設け,この機関監視装置そのもののどこがぐあいが悪いかを示すことができるようになっており,さらに表示だけでは履歴がわからなくなるので,記録機能をもっているのがほとんどである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「船舶自動化」の意味・わかりやすい解説

船舶自動化
せんぱくじどうか
automatic ship operation

船舶操縦の自動化のこと。 1920年代の初めに自動操縦装置が考案され,実用化されて以来,しばらくはみるべきものがなかった。しかし第2次世界大戦後は,すべての産業に電子技術を応用した自動化が急速に進み,日本の造船海運関係者も 60年頃から自動化船の研究開発に取組み,操船,機関制御,係船,荷役作業などの自動化に成功,輸送コストの低減,安全性の向上,労働条件の改善をはかってきた。特に 60年代の後半からは,電子計算機を船に積込み,高度集中制御方式によって多方面にわたる無人化,自動化を目指す超自動化の開発に努めるようになり,70年9月には,これらの成果を大幅に取入れた自動化船 (MO船。 machinery space zero people) といわれる三光汽船の『星光丸』,71年2月には大阪商船三井船舶の『三峰山丸』が就航,その成果は世界の注目を浴びた。

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