日本大百科全書(ニッポニカ) 「労働環境」の意味・わかりやすい解説
労働環境
ろうどうかんきょう
working environment
狭義には労働者の就業する場所における直接的な環境諸条件をさし、作業環境や職場環境の語とほぼ同義に使われる。広義には職場の人間関係や通勤条件をも含めて用いられることもあるが、一般には狭義の作業環境の意で用いられることが多い。労働環境を構成する要因別にみると、大きく物理的要因(有害エネルギーが労働者の健康に作用するもの)と、化学的要因(有害物質の化学的性質が労働者の健康に影響を与えるもの)とに分けられる。物理的要因には、温度、湿度、放射熱、気圧、照明、騒音、超音波、局所振動、マイクロ波、レーザー光線、赤外線、紫外線、電離放射線などがあげられる。また化学的要因としては、塵肺(じんぱい)症をおこす鉱物性粉塵や、種々の産業中毒、皮膚障害をおこす有機溶剤、特定化学物質、重金属などがあげられるが、これらはガス、液体、固体の形で労働者の皮膚や呼吸器、口腔(こうくう)などの粘膜を介して体内に吸収される。
労働環境が労働者の健康に及ぼす影響を考える際、次の事情が重視されなければならない。つまり、人類進化の長い歴史のなかで、産業革命期以降の短期間に、人類がこれまでに一度も経験したことのない異質な環境条件が労働環境として新たに立ち現れているということ、したがって、労働環境の有害さに対する生物としての順応はむずかしいということである。また働く者にとって労働環境は資本家から与えられた条件であって、たとえ有害な環境といえども、現実の労使関係のもとでは個人的によりよい環境を選択する自由はほとんどないといえる。それだけに、労働者の健康を保護するうえで労働環境のもつ意義は大きい。労働環境における危険有害因子が除去ないしは適切にコントロールされなければ、労働者の健康と安全に重大な影響を及ぼし、労働災害や職業病発生の直接・間接の原因となる。また、災害防止や疾病予防にとどまらず、より積極的に快適な労働環境を形成することは、労働者の生活の質を向上させるうえで重要である。労働環境の有害因子のなかには、人間の五感で感じ取れるものだけでなく、感覚的にとらえることのできないものも少なくない。また人間の感覚には容易に慣れが生じ、正確にとらえられないことも多い。したがって、労働環境改善の前提として正確な環境の測定と評価が必要である。
関連法規としては労働安全衛生法(昭和47年法律57号)のほかに、じん肺法(昭和35年法律30号)、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、特定化学物質等障害予防規則、事務所衛生基準規則、その他があり、また作業環境の測定機関や測定士の資格等を定めた作業環境測定法(昭和50年法律28号)もある。
[重田博正]