動物が人間に恩返しをすることを主題にした一群の昔話をいう。人間に苦難を救われた動物が、その謝礼に人間を援助するという筋立ては、昔話では、人間と動物が友情で結ばれる基本形式になっている。この感謝する動物の趣向は、多くの昔話の一部分にも含まれており、「狐(きつね)女房」や「鶴(つる)女房」など、動物を妻にする昔話でも、重要な要素になっている。動物の感謝を主題にした独立した昔話もある。日本の「狼(おおかみ)報恩」は、その典型的な例である。男が山で狼に出会う。狼が口をあけて男を見つめているので、手を口の中に入れると、のどに骨がかかっている。男が骨をとってやると、狼は一礼して去る。のちに狼は男の家に山の獲物を持ってくる。日本では体験譚の報告として伝えられている類話が多い。動物との善意の交渉は、前代には、現実の生活とまではいえないまでも、信仰的真実であった。類話の分布は広く、歴史も古い。朝鮮、中国、インドなど東アジアでは虎(とら)の話となり、インドからヨーロッパにかけては、多くはライオンに変わっている。家畜の報恩譚では、恩返しの動機は、普通は単純な飼い主への感謝である。「猫檀家(だんか)」もその一例である。貧乏寺の飼い猫が、和尚(おしょう)の夢のなかで、今度の葬式の途中で自分が棺(ひつぎ)を天に引き上げるが、経を唱えればもとに戻すという。夢の告げのとおりになり、和尚の法力が評判になって寺が栄える。これもたいていは伝説として語られている。猫は化けると死体を奪う妖怪(ようかい)になるという信仰を背景にした昔話で、恩返しをする動物は怪異性を備えていることが多い。寺に住む狸(たぬき)が茶釜(ちゃがま)に化けて和尚に恩を報いるという「文福(ぶんぶく)茶釜」や、和尚に化けて、病気の和尚のかわりに山門の勧進をしたという「狸和尚」も、この範疇(はんちゅう)に属する。寺院と動物との宗教的結び付きを示す物語で、これらも伝説として語られている。近世、寺院を中心に語り広められたものである。
[小島瓔]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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