動物報恩譚(読み)ドウブツホウオンタン

デジタル大辞泉 「動物報恩譚」の意味・読み・例文・類語

どうぶつ‐ほうおんたん【動物報恩×譚】

人から恵みや恩を受けた動物が、恩返しとしてその人に幸福や名声を報いるという昔話一類。「鶴女房」「文福茶釜」など。

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精選版 日本国語大辞典 「動物報恩譚」の意味・読み・例文・類語

どうぶつ‐ほうおんたん【動物報恩譚】

  1. 〘 名詞 〙 動物と人との交渉を説く昔話のうち、動物が人に恩返しをする一連の話。「鶴女房」「文福茶釜」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「動物報恩譚」の意味・わかりやすい解説

動物報恩譚
どうぶつほうおんたん

動物が人間に恩返しをすることを主題にした一群の昔話をいう。人間に苦難を救われた動物が、その謝礼に人間を援助するという筋立ては、昔話では、人間と動物が友情で結ばれる基本形式になっている。この感謝する動物の趣向は、多くの昔話の一部分にも含まれており、「狐(きつね)女房」や「鶴(つる)女房」など、動物を妻にする昔話でも、重要な要素になっている。動物の感謝を主題にした独立した昔話もある。日本の「狼(おおかみ)報恩」は、その典型的な例である。男が山で狼に出会う。狼が口をあけて男を見つめているので、手を口の中に入れると、のどに骨がかかっている。男が骨をとってやると、狼は一礼して去る。のちに狼は男の家に山の獲物を持ってくる。日本では体験譚の報告として伝えられている類話が多い。動物との善意の交渉は、前代には、現実の生活とまではいえないまでも、信仰的真実であった。類話の分布は広く、歴史も古い。朝鮮、中国、インドなど東アジアでは虎(とら)の話となり、インドからヨーロッパにかけては、多くはライオンに変わっている。家畜の報恩譚では、恩返しの動機は、普通は単純な飼い主への感謝である。「猫檀家(だんか)」もその一例である。貧乏寺の飼い猫が、和尚(おしょう)の夢のなかで、今度の葬式の途中で自分が棺(ひつぎ)を天に引き上げるが、経を唱えればもとに戻すという。夢の告げのとおりになり、和尚の法力が評判になって寺が栄える。これもたいていは伝説として語られている。猫は化けると死体を奪う妖怪(ようかい)になるという信仰を背景にした昔話で、恩返しをする動物は怪異性を備えていることが多い。寺に住む狸(たぬき)が茶釜(ちゃがま)に化けて和尚に恩を報いるという「文福(ぶんぶく)茶釜」や、和尚に化けて、病気の和尚のかわりに山門勧進をしたという「狸和尚」も、この範疇(はんちゅう)に属する。寺院と動物との宗教的結び付きを示す物語で、これらも伝説として語られている。近世、寺院を中心に語り広められたものである。

[小島瓔

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「動物報恩譚」の意味・わかりやすい解説

動物報恩譚
どうぶつほうおんたん

動物の恩返しをテーマとする昔話の総称。狼報恩,鶏報恩,忠義な犬,猫壇家などがある。動物が救助されたお礼をするというモチーフは,これら動物自身による援助という形で行われるもののほかに,異類婚姻譚にみえるように,人間の女性になり婚姻という形式をとるものも多い。なかには些細な恩に対し過分に報いる話や,まったく一方的に動物が援助をする話もあり,報恩を受ける主人公 (人間) も必ずしも善良な爺婆や働き者ばかりではなく,逆になまけ者や悪知恵のある者の場合もある。この点から,神意によりあらかじめ指定された者が,神の使徒としての動物の援助を受けて事業を成就するという昔話の類型を考えることもできる。また,動物の行為を報恩と結びつけたのは,近世社会の道徳観念や,語り手としての老人が教訓的に昔話を用いた結果とも考えられる。

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