17世紀後半にイギリス・オランダ間で3度にわたって行われた海戦。当時両国間には北海の漁業や貿易・海運,植民地をめぐって深刻な対立が生じていたが,全盛期のオランダがイギリスを圧倒する勢いにあった。イギリスはクロムウェル政権の登場とともに,1651年有名な航海法(海運法)を布告して,全面的にオランダに反撃に出た。また市民革命により王位を追われたスチュアート家と,オランダの総督職にある名門オランイェ(オレンジ)家が,姻戚関係にあったことも両国間の政治的緊張の原因となっていた。第1次英蘭戦争(1652年5月~54年4月)は,トロンプ提督指揮下のオランダ艦隊とブレーク提督の率いるイギリス艦隊がドーバー沖で衝突したのが戦端となり,大きな海戦だけでも8回に及んだ。しかし決定的な勝敗のないまま,ウェストミンスター条約でイギリスの要求にほぼ沿う形で講和が成立した。オランダの商船隊や貿易の被害は大きく,航海法も撤回されなかった。第2次英蘭戦争(1665年3月~67年7月)は植民地問題に端を発して,イギリスが宣戦布告したもので,まれに見る大海戦が2度にわたって展開された。この間イギリスではペストの大流行とロンドンの大火があり,これに乗じてロイテル提督のオランダ艦隊はテムズ河口にまで迫った。オランダ優勢のままブレダ条約で講和が成立し,航海法の適用がオランダ側に有利なように緩和された。しかし北アメリカのニュー・アムステルダム(現,ニューヨーク)はイギリスに割譲された。第3次英蘭戦争(1672年3月~74年2月)はフランスのオランダ侵攻(オランダ戦争)にあわせてイギリスが宣戦布告したもので,英仏連合艦隊はオランダ上陸を試みたが,ロイテル指揮のオランダ艦隊に撃退された。今回も軍事的にはオランダ優勢のもとに第2次ウェストミンスター条約で講和が成立し,両国の関係はほぼ戦争前の状態に復した。3度にわたる戦争で,イギリスは将来の躍進の足場を築いたが,逆にオランダは疲弊が甚大で,次第に勢威を失っていった。なお〈英蘭戦争〉はイギリス側の呼称であり,オランダではふつう〈イギリス戦争〉と呼ぶ。
執筆者:佐藤 弘幸
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…アムステルダムをはじめホラント州の諸都市には,商業とともに工業も発達し,諸都市の富裕な市民層を基盤として,絵画,建築,文学,学問などが急速に発達し,17世紀中葉のオランダは大政治家ウィトの指導のもとに,経済的繁栄と文化隆盛の絶頂に達した。 しかし,17世紀の後半オランダはその経済的繁栄を嫉視するイギリスやフランスの挑戦を受け,2度にわたる英蘭戦争(1652‐54,1665‐67)とフランス軍の侵入(1672)にあい,国力とともに経済と文化はしだいに後退した。フランス軍侵入によりウィトは退き,代わってオラニエ家のウィレム3世が総督に就任したが,ウィレムはイギリスの名誉革命(1688)でイギリス国王(ウィリアム3世)として迎えられ,衰運をたどる祖国を再興することができず,18世紀のオランダはしだいにヨーロッパの政治と経済の表舞台から退場した。…
…オランダ商船のイギリス港への出入を禁ずる航海条令の発布(1651)を契機に衝突したイギリス,オランダ両国の海軍は,北洋で3度にわたり制海権を争ったが決着はつかなかった。しかし編隊の機動や集中・分散,横陣による砲撃効果の最大化,封鎖による敵国への圧力行使など,組織的な海軍戦術と戦略が生まれたのはこのイギリス・オランダ戦争(英蘭戦争)からであった。国力の衰えたオランダに代わって,やがてフランスがイギリスの制海権に挑戦した。…
…51年法は,イギリスおよび植民地に輸入されるヨーロッパ以外の商品は,大部分の船員がイギリス人であるイギリス船で輸送さるべきこと,ヨーロッパ物産はイギリス船ないし生産国の船で輸入さるべきことなどを規定し,オランダ船による中継貿易の排除をめざした。翌年第1次英蘭戦争が勃発したのはこのためである。60年法では,とくに重要な交易品――砂糖,タバコ,インジゴなどの新世界物産,東インド物産,北欧の海運資材など――を列挙し,これらの商品のヨーロッパ向け輸出は必ず本国経由でなされるべきことを規定した。…
…少年時代から海に出,商船をはじめ捕鯨船,私掠船,軍艦などで経験を積み,34歳で軍艦の艦長となる。第1次英蘭戦争(1652‐54)の折,副司令官に就任し,各地の海戦でめざましい活躍をした。1653年,司令官に昇進。…
※「英蘭戦争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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