茶子味梅(読み)チャサンバイ

デジタル大辞泉 「茶子味梅」の意味・読み・例文・類語

ちゃさんばい【茶子味梅】

狂言和泉いずみ。夫の唐人が、奇妙なことを言って泣くので物知りに尋ねると、唐土の妻を恋しがって泣くのだという。そこで妻は酒で機嫌をとるがうまくいかない。

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精選版 日本国語大辞典 「茶子味梅」の意味・読み・例文・類語

ちゃさんばい【茶子味梅】

  1. 狂言。和泉流。夫の唐人が「日本人無心我唐妻恋」「茶子味梅(ちゃすあんばい)(茶が飲みたいの意)」などと言いながらしばしば泣くので物知りに訳を尋ねると、唐土の妻を恋しがって泣くのだと言われ、女は腹を立てるが、さとされ、夫に酒を飲ませて慰める。やがて上機嫌になった夫が舞を舞うが、途中で唐土の妻を思って泣きはじめ、けんかとなる。「ちゃすあんばい」「さすあんばい」とも。

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改訂新版 世界大百科事典 「茶子味梅」の意味・わかりやすい解説

茶子味梅 (ちゃさんばい)

狂言の曲名女狂言和泉流だけにある。夫は唐人,妻は日本人で10年余り連れ添っているが,このごろ夫は〈日本人無心我唐妻恋(につぽんじんむしんがとうさいれん)〉〈ちゃさんばい〉〈きさんばい〉などと奇妙な言葉を口にしては泣くことが多い。妻は近所の物知りにその意味を尋ねに行くと,それは〈故国に残してきたもとの妻が恋しい〉〈茶が飲みたい〉〈酒が飲みたい〉という意味なので,異境に住む夫に酒など飲ませていたわってやれと教えられる。そこで,夫が帰宅するとさっそく酒を飲ませて機嫌をとる。夫は上機嫌で妻に舞わせたり,自分も歌ったり舞ったりするが,舞のなかばでまたしても〈日本人無心……〉と言って泣き出すので,妻は腹を立て,杖を振り上げて夫を追い回す。登場するのは妻,教え手,夫の3人で夫がシテ囃子入り。国際結婚の悲喜劇を扱った異色作。唐音(とうおん)(中国語風に発音をまねた言葉)が笑いを誘い,楽(がく)の舞が異国情緒を漂わせる。古来大蔵流にはなく,鷺流では江戸中期の台本に見えるほか,江戸後期の名寄(なよせ)(演目一覧表)などに正規のレパートリーの外として《帰参(三)盃(きさんばい)》の曲名で掲げられている。《狂言記》では《茶盞拝》とも書いた。本曲を脚色した戯曲岩田豊雄獅子文六)の《東は東》がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「茶子味梅」の意味・わかりやすい解説

茶子味梅
ちゃさんばい

狂言の曲名。女狂言。和泉(いずみ)流だけの曲。唐人を夫とした箱崎の浦に住む日本人妻が、近ごろ夫が奇妙なことをいって泣くと、近所の物知りにそのことばの意味を尋ねに行き、日本人無心我唐妻恋(にっぽんじんむしんがとうさいれん)とは「日(ひ)の本(もと)の人の心のなかりけり、わが唐土(もろこし)の妻ぞ恋しき」ということ、さらにチャサンバイは「茶を飲もう」、キサンバイは「酒を飲もう」の意だと知る。そこで帰宅した妻は夫(シテ)に酒を飲ませて機嫌をとる。喜んだ夫は、妻に舞を所望し、自分も楽(がく)を舞うが、舞の終わりにまた「日本人無心……」と泣き出し、妻に追い込まれる。国際結婚の悲喜劇を描いた珍しい曲で、楽は瓢逸(ひょういつ)な囃子(はやし)で舞い異国情緒を漂わす。「フーライ、フーライ(うれしい)」「タブケ、タブケ(いやだ)」など、唐音(とうおん)といわれる狂言独特の珍妙な中国語も笑いを誘う。

[小林 責]

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