改訂新版 世界大百科事典 「荻野説」の意味・わかりやすい解説
荻野説 (おぎのせつ)
Ogino theory
荻野久作が発表した月経と排卵に関する学説。オギノ式の名で避妊にも応用されている。成熟した正常婦人では,25~38日くらいの間隔(月経周期)で月経が起こる。そのほぼ中間に排卵が起こるのであるが,正確な排卵日について,1924年まで定説がなかった。24年に荻野説が発表されたが,それまでの研究者が月経から排卵日までの日数に規則性を見いだそうと努力してきたのに対し,排卵から次の月経までの日数こそが一定範囲の日数にあるのであって,月経から排卵までの日数は月経周期日数の長短に応じ変化することを明らかにしたものである。これは,発想を転換して,先行した月経でなく排卵後の月経から逆算したという点で,画期的なものであった。はじめは国の内外から多数の反論もあったが,現在では国際的に正しい学説であることが認められており,例外もきわめて少ない。要約すれば〈排卵は月経の12ないし16日前に起こる〉というものであるが,これはとりもなおさずヒト黄体の寿命を明らかにしたもので,女性の生理の理解や,妊娠や避妊を望む婦人における受胎期や安全期の計算に,科学的な根拠を与えることとなった。
荻野説を避妊に応用する方法はいろいろあるが,学説の本質からみて,次回(予定)月経をいかに正確に予測するかが実際の効果と比例する。月経周期日数は同一婦人でも月ごとにかなり変動するので,まず過去1年くらいの最長日数と最短日数を記録する。これにもとづき,次の計算式で月経開始日から受胎期間を算出する。
受胎期の初日=10+(最短周期-28)
受胎期の終日=17+(最長周期-28)
となる。この式は整理すると,受胎期の初日=最短周期-18,受胎期の終日=最長周期-11となる。
もし最長および最短日数を過去6ヵ月くらいの記録から計算した場合は,この計算で出た受胎期の前後に2日ずつの余裕をとる。これを正確に守れば,避妊の失敗率は0.1%(1000ヵ月すなわち約83年に1回)であるが,不正確に用いると,この率はずっと高くなるので注意が必要である。
→基礎体温
執筆者:玉田 太朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報