建築家。福岡県久留米市生まれ。1950年(昭和25)早稲田大学理工学部建築学科卒業後、竹中工務店に勤務(1950~1952)。村野・森建築設計事務所を経て、1953年菊竹清訓建築設計事務所を開設する。1995年(平成7)博士論文「軸力ドームの理論とデザイン」で工学博士。
菊竹は独立後、出身地である久留米でいくつかの作品をつくり、ブリヂストンタイヤ殿ヶ谷(とのがや)第一アパート(1956、神奈川)に続いて、1958年東京都文京区に自邸スカイハウスを竣工し、衝撃的なデビューを果した。これは鉄筋コンクリート造で主要居住部分はピロティによって持ち上げられた住宅であり、後の1960年に黒川紀章(きしょう)、川添登らと結成するメタボリズム・グループの思想をいち早く実現した。メタボリズムは生物学用語で新陳代謝を意味し、転じて都市や建築は新陳代謝し、進化、発達する有機体でなければならないとする建築思想である。都市の基幹設備、インフラストラクチャーと、進化、発達、更新を続けるユニットを組み合わせるシステムは、スカイハウスのピロティと、持ち上げられた居住単位および設備の更新によって取り替え可能なキッチンやバス・トイレからなるムーブネット(設備ユニット)の組み合わせで明快に表現されていたのである。
菊竹はチームⅩ(テン)会議(1962)に「海上都市」「搭状都市」などのスケッチをもって丹下健三、槇文彦(まきふみひこ)とともに参加し、ル・コルビュジエらの作り上げた都市観を越えて技術指向を前面に出した方法論をプレゼンテーションした。当時、菊竹と同世代であるイギリスの建築グループ、アーキグラムも同じく会議で技術指向を表明した。しかし、アーキグラムらの批評的都市イメージは、右肩上がりの経済と都市建設のさなかに、菊竹らによりすでに日本で先取りされ、現実化されたものであり、その先をいくメタボリズム・グループは世界のアバンギャルド建築家たちから驚きの眼で見られた。
その頂点は大阪で開催された日本万国博覧会ランドマークタワー(1970)であり、また沖縄海洋博覧会アクアポリス(1975)である。これらは単体の建築というより菊竹の構想するメタボリズム都市の一部の実現であり、本格的な使用実験も行われた。
1963年発表した設計仮説「か・かた・かたち」は建築設計の方法を理論化したものである。デザイン・プロセスを構想段階、技術とタイポロジーの段階、形態的、実施的な段階と明確に分節し、より論理的で合理的なかたちで示したのであった。
菊竹は伝統的な建築様式に鉄筋コンクリート造の表現を用いた出雲大社庁の舎(1961。日本建築学会賞、芸術選奨文部大臣賞、AIA(アメリカ建築家協会)汎太平洋賞)などで伝統を現代建築に取り入れた。国立京都国際会議場コンペでは「か・かた・かたち」の方法論を取り入れ、優秀賞を獲得(1963)、久留米市民文化会館(1969)のホールでは大規模な可変装置の導入を試みるなど多彩な表現形式を展開した。その後、ベルナール・ビュフェ美術館(1973、静岡県)、萩市庁舎(1974)を経て、京都信用金庫店舗の作品群(1970年代)では京都周辺に一連の造形システムをもった建築を30あまり建設してコミュニティと建築とのあり方を示した。また菊竹は東京・渋谷公園通りのSEED(1986)やLOFT(1987)などの商業施設や、東京・銀座通りの銀座テアトルビル(ホテル西洋銀座。1987)など、1990年代、消費社会の最前線における街並の核となる繁華街の商業ビル計画にもかかわっている。
また、つくば科学博覧会(1985、茨城県)のマスタープランを作成、なら・シルクロード博覧会(1988)プロデューサー、長野オリンピック冬季競技大会(1998)空間構成監督を務めた。
そのほかの作品としては川崎市市民ミュージアム(1990)、江戸東京博物館(1992)、北九州メディアドーム(1998)などがある。
[鈴木 明]
『『代謝建築論』(1969・彰国社)』▽『『エコポリス・海岸都市』(1994・勁草書房)』▽『『メガストラクチャー』(1995・早稲田大学出版会)』▽『川添登著『METABOLISM 1960』(1960・美術出版社)』▽『『日本万国博の建築』(1970・朝日新聞社)』▽『『菊竹清訓作品と方法1956―1970』(1973・美術出版社)』▽『『菊竹清訓構想と計画』(1978・美術出版社)』▽『『菊竹清訓作品集』1~4(1990~1998・求龍堂)』
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