おとし‐ぶみ【落文】
- 〘 名詞 〙
- ① 人に言いたいが公然とは言えない事を、匿名の文書に書いて、屋内や路上などに落としておくもの。落書(らくしょ)。
- [初出の実例]「大谷にまかりたりしに、おとし文や見し、それは我したりしなりと有りしかば」(出典:頼政集(1178‐80頃)下)
- ② 江戸時代、火を付けるとか殺すとかいった脅迫文を書いて他人の家の玄関などに投げ込んだ文書。また、それを行なうこと。厳罰が科せられた。捨文。投文。
- [初出の実例]「一昨十七日之夜同所弐丁目太右衛門家之台所え落文仕候」(出典:御仕置裁許帳‐四・二八六・貞享元年(1684)五月一九日)
- ③ オトシブミ科の小甲虫。体長六~一〇ミリメートル。頭部が細長く、後頭部がくびれている。頭と胸は黒く、前ばねは赤褐色または黒色。各地に分布する。ナラ、ハンノキなどの葉を丸めて「ゆりかご」と呼ばれる巣をつくり、地上に落とす。巣中で卵はふ化し、幼虫は巣の一部を食べて育つ。巣が巻いた手紙のようにみえるところからこの名がある。《 季語・夏 》
- [初出の実例]「中堂に道は下りや落し文」(出典:六百五十句(1955)〈高浜虚子〉昭和二一年)
- ④ コウチュウ(鞘翅)目オトシブミ科に属する甲虫の総称。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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落文 (おとしぶみ)
主として江戸時代の脅迫を伴った訴願または密告書。捨文,捨訴ともいう。正規の手続をふまずに評定所や老中の邸内または近辺に置いた訴願書,日ごろ恨みのある家の門前に落とした放火予告書,事件の真犯人を示唆した投書の類をいう。差出人は多く無記名または偽名。近世中期から明治維新期にかけて,年貢増徴をする悪代官,独占的悪徳商人,高利貸らを糾弾し,その取締り強化を訴えたものが多い。
執筆者:北原 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の落文の言及
【落書】より
…門や壁など書くべきでないところにいたずら書きすること。転じて,記述や描写の目的を定めずに遊び心で描く態度をさす。日本では,〈落書〉を〈らくしょ〉と読んだ時代が長く,そもそもは〈落首(らしじゆ)〉に由来することばである。落首は,詩歌の形で時事や人物を諷した章句を門や塀にはったり,道に落として世間の評判をたてようとする行為や作品をいった。平安時代に貴族のあいだで行われ,やがてそれが恋の相手などへの思慕のメッセージをさすものとなったのが〈落し文(おとしぶみ)〉であり,詩歌という形にとらわれず匿名の風刺をさす語となったのが〈落書〉である。…
【落書】より
…時の政情や社会風潮の風刺・批判,陰謀の密告,特定の個人に対する嘲弄・攻撃のために作成し,ひそかに,人目につきやすい場所に落としておいたり(落しぶみ),門戸や壁に書きつけたり,紙に書いて掲示したりした匿名(とくめい)の文書。詩歌の形式によるものは,とくに〈落首(らくしゆ)〉といいならわしてきている。また,いわゆる〈いたずらがき〉としての〈らくがき〉(落書,楽書)は,〈らくしょ〉が変化したものであるが,本来のそれとは区別されている。…
※「落文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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