改訂新版 世界大百科事典 「ハンノキ」の意味・わかりやすい解説
ハンノキ
Alnus japonica (Thunb.) Steud.
湿った土地に生えるカバノキ科の落葉高木。田のあぜなどに植え,これを稲木とする地方も多い。幹は直立し,15mにも達し,樹皮は細かく割れる。葉は卵状長楕円形で,低い鋸歯があり,基部はくさび形で,長さ1~3cmの葉柄がある。冬芽は柄があり,卵形で,最初の葉の葉身と托葉とに包まれている。雄花序は夏に枝の先端に形成される。苞と小苞の内に3花があり,4裂する花被に包まれた4本のめしべからなる。雄花序は冬に伸長し,下垂して開花し,花粉を散らす。雌花序は雄花序より基部の葉腋(ようえき)に形成され,芽鱗に包まれていない。苞と小苞の内に2花があり,開花時には,苞の間から紅紫色の花柱をのぞかせている。雌花序は球果状となる。苞と小苞の合着した果鱗の腋に,2個の扁平な小堅果があり,果鱗のすきまからこぼれ落ちる。北海道,本州,四国,九州,琉球,台湾,朝鮮,中国大陸,ウスリー地方に分布する。材を建築,器具,家具などに用い,樹皮や球果から染料,タンニンをとる。
ヤマハンノキA.hirsuta Turcz.は山のやや乾いた二次林に生える。葉身は広卵形で,浅い欠刻状の重鋸歯がある。ミヤマハンノキA.crispa (Aiton) Pursh ssp.maximowiczii (Call.) Hult.は亜高山帯から高山帯に生える落葉小高木で,果実に広い翼を有し,基本変種は周北極地域に分布する。ハンノキよりヤシャブシに近縁である。
ハンノキ属Alnus(英名alder)は根粒をもち,窒素固定を行う。そのため裸地に植えて,土の流失を防ぐのに用いられる。
執筆者:岡本 素治
民俗
ハンノキは古代ケルト人に〈妖精の木〉と呼ばれ,たたりを恐れて切り倒すことが厳禁された。ここに妖精が宿るのは,長く穂のように垂れる雄花が緑色をしており,同じく緑の体色をもつ妖精を隠すためだという。また湿気に強いため,リウマチ予防にその木片をチョッキのポケットに入れておくまじないが,古くからイギリスにある。さらにハンノキを切ると切り口が白から黄褐色に変化するため,火に関係づけられたり,人体からの出血を思わせるので切ることが差し控えられるといわれる。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報