改訂新版 世界大百科事典 「董永」の意味・わかりやすい解説
董永 (とうえい)
Dǒng Yǒng
中国,漢代に発生した孝子伝説の主人公。山東省千乗の人とされる。早くに母を失った董永は,ひたすら父に孝養をつくし,その父が死んだとき,埋葬費に窮して長者の奴隷となる。その孝心に感じた天は,織女星を下して妻とし,彼女は織布の功で夫の身を償うと天界に帰ってゆく。白鳥処女説話の変型したもので,漢の劉向(りゆうきよう)《孝子伝》や晋の干宝《捜神記》巻一などにみえ,《蒙求(もうぎゆう)》にも〈董永自売〉として収められ,古代のインテリたちに記憶された。この説話は,唐末五代の変文《孝子董永伝》や古白話小説《董永遇仙伝》にも編まれ,そこでは天女との間に生まれた遺児が天界の母を訪ねる後日譚が付加され,後者ではその遺児に漢朝の大儒董仲舒が擬せられる。さらに清代に至ると,時代を宋朝に設定して宝巻《董永売身》にも語られるほか,七夕説話と結合した民間伝説も行われて,その伝承は絶えない。
執筆者:田中 謙二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報