蓬萊曲(読み)ほうらいきょく

改訂新版 世界大百科事典 「蓬萊曲」の意味・わかりやすい解説

蓬萊曲 (ほうらいきょく)

北村透谷の第2詩集。1891年養真堂刊。主人公柳田素雄が,〈牢獄(ひとや)ながらの世は逃げ延びて〉,富士山面影を借りた空想上の山である蓬萊山麓から,蓬萊原へ,さらに山頂へと漂泊の旅を続け,最後に狂死するまでの過程を描く長編劇詩。透谷は,この作品において,大魔王に象徴される世俗的な論理倫理に,素雄の内面を対決させ,その自意識の劇的な葛藤のうちに,自己の近代意識確立の苦闘を反映させたと言える。おもに,バイロンの《マンフレッド》の構想が借りられているが,世界観的な劇詩の試みとして,近代詩の創成期においてばかりでなく,その後においても,他に例を見ない画期的な作品である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の蓬萊曲の言及

【ロマン主義】より

…彼はロマン主義の本質を,未知な世界や異常な事物などに対する好奇心などの伝奇性に求めているが,そこから森鷗外元祖説は導かれているのである。これに反対して,勝本清一郎は,〈正統なロマン主義〉の性格が,〈自由を求める精神,形式を破壊する精神,保守的勢力に対して革命的な精神,動的な自己主張の精神〉(〈《文学界》と浪曼主義〉)にあると考え,北村透谷の劇詩《楚囚之詩(そしゆうのし)》(1889)から《蓬萊曲(ほうらいきよく)》(1891)へ展開する過程に,その顕著なあらわれを見ている。この勝本の立場からは,佐藤春夫がロマン的作品として高く評価する鷗外青年期の訳詩集《於母影(おもかげ)》(1889)や小説《舞姫》(1890)は,その静的な形式美,節度,保守,妥協への希求,抒情への傾向において,酷評されざるをえない。…

※「蓬萊曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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