日本大百科全書(ニッポニカ) 「藤枝晃雄」の意味・わかりやすい解説
藤枝晃雄
ふじえだてるお
(1936―2018)
美術評論家。文学博士。福井県生まれ。東京芸術大学美術学部芸術学科卒業。京都大学大学院美学美術史学専攻修士課程修了。その後、フルブライト奨学生としてオハイオ州のケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院に留学、そのほかペンシルベニア大学大学院、アメリカン・カウンシル・オブ・ラウンド・ソサエティーズ、ニューヨーク大学美術研究所などでアメリカ美術を研究。クレメント・グリーンバーグの影響を受け、キュビスム、抽象表現主義、ミニマリズムの系譜のなかにモダニズム芸術の精髄を見いだし、また美術作品の意味を形式から抽出するフォーマリズム(形式主義)批評の日本における展開を意図し、先行世代の「美術批評家」とはまったく異質な立場を確立する。
帰国後の1960年代なかばより評論活動を開始。『美術手帖』『みづゑ』『三彩』などの美術誌に多くの論考を発表して、日本におけるフォーマリズム批評の草分けとして、抽象表現主義をはじめとするアメリカ現代美術の紹介に努めた。なかでもジャクソン・ポロックに関しては充実した研究を残している。また並行して日本の現代美術に関しても精力的に発言、とりわけ1970年代には日本の美術ジャーナリズムの中心を担う存在として活躍した。「もの派」や美術家共闘会議(1969年多摩美術大学の学生により結成)など、当時日本の現代美術の主流を占めた多くの動向に対しては常に批判的で、多くの局面で対立したが、その一方で川俣正や辰野登恵子(とえこ)(1950―2014)など独自の視点によって発掘した作家も少なくない。
そのフォーマリズムの立場に徹した攻撃的な論調や文体は誤解されることが多い反面、一部の読者によって熱烈な支持を受けている。展覧会企画も多数行っている。1970年に武蔵野美術大学助教授として着任し、その後2007年まで同教授。東京芸術大学などでも教鞭をとる。著書には『現代美術の展開』(1977)、『ジャクソン・ポロック』(1979)、『絵画論の現在』(1993)、『現代芸術の不満』(1996)、『現代芸術の彼岸』(2005)などがあり、またグリーンバーグ著作集の翻訳にも取り組んだ。夫人は画家の松本陽子(1936― )。
[暮沢剛巳 2018年5月21日]
『『現代美術の展開』(1986・美術出版社)』▽『『ジャクソン・ポロック』(1994・スカイドア)』▽『『現代芸術の不満』(1996・東信堂)』▽『『絵画論の現在』(1997・スカイドア)』▽『藤枝晃雄・谷川渥編著『芸術理論の現在』(1999・東信堂)』