蛍光測定により細部を非破壊的に観測する道具や物質。化学の分野では、光や標識分子を測定対象と相互作用させ、その応答を情報として取り出す方法に用いられる物質をいう。指示薬(インジケーター)のことをプローブ色素probe dyesともよぶ。光吸収や発光のスペクトル変化(色変化)によって、溶液の水素イオン濃度(pH)、イオンの存在、酸化還元系、溶媒極性などの情報を、反応系に影響を及ぼすことなく指し示す。蛍光プローブ法とは、蛍光測定が可能な置換基や分子を系内に導入し、その測定結果から分子レベルの情報を得る手法である。DNAプローブは、10~20個程度の塩基配列既知の1本鎖DNAを、蛍光性色素などで標識したものであり、種々のDNAプローブを用いると、配列未知のDNAの塩基配列を決定することができる。約30億もの塩基対(つい)配列からなるヒトゲノムは、2003年に完全解読された。
DNAプローブを用いる塩基配列の決定はインビトロin vitro(生体外)でなされるが、緑色蛍光タンパク質(GFP:green fluorescent protein)をプローブとする実験は、インビボin vivo(生体内)でなされ、生きている細胞内で蛍光をつくり出すことができる。1992年、プラシャーDouglas C. Prasher(1951― )は、GFP遺伝子の塩基配列を決定した。1994年、M・チャルフィーは、この遺伝子を増幅し、大腸菌や線虫の神経細胞に組み込んでGFPを発現させることに成功した。特定のタンパク質の遺伝子にGFPの遺伝子をつなげると、生体内でタンパク質がつくられる時期や移動のありさまが観察できる。このように蛍光をタグ(追跡できるように組み込んだ標識)として利用する方法のほか、細胞内でカルシウムイオンを検出するなど、センサーとしての利用法も開発された。
GFPは238個のアミノ酸が11回のβ(ベータ)-シート構造をつくり、バレル(樽(たる))型の環状構造を形成している。65~67番目のアミノ酸は、セリンSer、チロシンTyr、グリシンGlyで、この環状構造の中心に位置している。GFP遺伝子には、セリン、チロシン、グリシンからなる部分を酸化して蛍光発色団とする働きがある。このメカニズムを解明したのがR・Y・チェンである。チャルフィーとチェンは、1961年(昭和36)にオワンクラゲからGFPの抽出・単離に成功した下村脩(おさむ)とともに、2008年(平成20)ノーベル化学賞を受賞している。この蛍光発色団は、遺伝子操作で特定のタンパク質に組み込むことができる。いろいろなタンパク質に組み込まれたGFPは、生体内に入ってその居場所を光って示すことによって、特定の細胞やタンパク質の挙動を追跡する手段として利用できる。より安定で、蛍光効率が高く、また、さまざまな色に輝く蛍光タンパク質も開発され、使われている。
超音波、X線、核磁気共鳴などを用いた生体の透視を、イメージングとよぶ。蛍光プローブ法を、これらになぞらえて蛍光イメージング法とよぶことがある。そこには、時間軸や空間軸を含めた分析手法であるという意味が含まれている。
[時田澄男]
『日本エムイー学会編、飯沼武・舘野之男編著『ME教科書シリーズD-2 X線イメージング』(2001・コロナ社)』▽『鈴木収著「インジケータ」(時田澄男監修『エレクトロニクス用機能性色素』所収・2005・シーエムシー出版)』▽『化学同人編集部編・刊『分子イメージング――蛍光プローブが拓くライフサイエンスの未来』(2007)』▽『時田澄男著「蛍光プローブ」(杉森彰・時田澄男著『光化学――光反応から光機能性まで』所収・2012・裳華房)』
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