フェーデ(英語表記)Fehde

改訂新版 世界大百科事典 「フェーデ」の意味・わかりやすい解説

フェーデ
Fehde

ゲルマン古代ならびにゲルマン法において,違法行為が私人たる当事者の間に発生した場合に,被害者の所属する氏族団体すなわち〈ジッペ〉と,加害者のそれとの間に自動的に生じる敵対関係をいう。そしてこの関係は,基本的には,被害者側による血の復讐の成功をもって終結する。そこでは,国家に代わる私人による制裁私刑),すなわち復讐が適法行為とされる。したがって,フェーデは国家の中央権力が未成熟で,違法行為に対する有効な抑止をなしえないために,すなわち,国内平和を自身の手で完全に保障することが不可能ないし困難であるために,国家の構成員が自身の手で自身の生命身体財産,自由および名誉を守らざるをえない段階においてのみ存立しうる法的概念である。そしてこの段階では,氏族団体は一つの権力団体として機能する。

 フェーデの状態は,古くは血の復讐によってのみ解消されるが,中世初期には,王権の強化に伴って,復讐という手段のほかに,これと並行して,両当事者間の和解または判決により,贖罪金(賠償金)すなわち〈ブーセBusse〉の授受をもって終結させるという方法が出現する。フェーデ解消のすべての場合に,被害者側の復讐放棄の誓約がなされる。中世の中期には,平和のいちだんと強い要請と,中央権力のいちだんの成長とに応じて,贖罪金による解決の方が前面に出始め,復讐行為は徐々に制限され違法行為とされる傾向にあった。さらに,中世後期における生命刑や身体刑等の刑罰の適用と,被害者側による訴追から官憲による訴追への変化によって,違法行為に対する制裁の主体は,しだいに被害当事者側から公権力へと移行する。大陸部では,16世紀初頭ころが,その転回点と見られ,それ以後は遺物を残しつつも,違法行為の制裁は,近代国家のそれに急速に近づいていく。それとともに,フェーデという法的概念もまた,歴史的遺物となる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェーデ」の意味・わかりやすい解説

フェーデ
ふぇーで
Fehde ドイツ語

中世西ヨーロッパで、封建貴族や都市間に行われた合法的私戦。中世封建社会では、すべての自由人に、侵害された自己の権利を、裁判手続に訴えることなく、実力で回復する権利が認められていた。この実力行使の結果発生する戦いがフェーデであった。ゲルマン古来の「血の復讐(ふくしゅう)」から発展したものであるが、一定の形式的手続を踏む必要があった点で、「血の復讐」と区別される。たとえば、3日以内に相手に通告しなかった場合は、合法的フェーデとは認められなかった。10世紀以降、教会を中心に、「神の休戦」「神の平和」という形で、フェーデを制限・禁止しようとする動きがおこり、有力諸侯や国王はこれを利用して、領内の治安維持、警察権を自己の手に集中しようと努め、ここから近代的国家権力が発展していった。ドイツでもたびたびラント平和令が発布されたが、領邦的分裂が著しかったため実効をもたず、1495年の「永久平和令」は、いちおうフェーデの全面的非合法化を達成したとはいえ、中世末から近世初頭にかけて貴族や騎士や都市間のフェーデは、ほとんど日常の現象となっていた。

[平城照介]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェーデ」の意味・わかりやすい解説

フェーデ
Fehde

中世ヨーロッパにおいて権利紛争解決の方法として用いられた私闘。身体,財産,生命,名誉を傷つけられた者の親族が,加害者の属する親族に対して実力を行使してその回復をはかることは合法的であるとされた。封建制のもとで公権力が各領主の手に分散していたことから,裁判と並んでこの方法が合法性を認められていたが,中世末期以来,封建制がくずれ君主主権による領域国家の統一が進行するなかで次第に制限,禁止され (ラントフリーデ運動) ,国民間の権利紛争の解決は裁判手続きのみによることとなった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「フェーデ」の解説

フェーデ
Fehde

古ゲルマン法における家と家との戦闘状態。加害者側の家に対し,被害者側の家が行う実力による法益(身体,生命,財産)の回復(自力救済)を意味する。

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世界大百科事典(旧版)内のフェーデの言及

【私刑】より

…すなわち,被害者のジッペは,加害者のジッペに対して復讐を行う権利と義務を有し,他方加害者のジッペも加害者を援助して復讐に応じる義務があった。このような両ジッペ間の敵対関係および復讐を,フェーデ(私闘)とよんだ。このように,個人に対する犯罪の制裁は,国家の手によらず,各ジッペに任されていたことから,フェーデを一種の私刑とみることはできる。…

【帝国改革】より

…1495年のウォルムスの帝国議会でマインツ選帝侯ベルトホルト・フォン・ヘンネベルクBerthold von Henneberg(1441か42‐1504)を先頭にして領邦権力は国王に代わって統治する帝国統治院Reichsregimentの設置を提案したが,国王などの反対にあって実現しなかった。しかしこの議会において永久ラント平和令が制定され,私闘権(フェーデ)を完全に廃棄し,民間人だけでなく帝国等族にもいっさいの自力救済を禁止し,裁判手続のみを認めたことは法共同体としての国家にとっては大きな意味をもっていた。こうした施策を実施するために,帝国最高法院Reichskammergerichtを宮廷から切り離してフランクフルト・アム・マインで常時開催することになった。…

【復讐】より

…すなわち復讐であるが,この場合に復讐行為は近代国家におけるのとは異なり,あくまで適法行為として現れる。違法行為の発生により自動的に,両当事者および両氏族団体(ジッペ)間に敵対関係すなわち〈フェーデ〉が生まれ,これは復讐の成功をもって消滅する。この血の復讐の範囲は無制限であった。…

【ラント平和令】より

…中世社会には,およそ人間社会に普遍的な殺人,強盗,放火などの個別暴力行為のほか,権利主張の正当な手段としての戦闘行為(フェーデ)が行われていた。この事態に対し初期中世の王権は,ただ個々の係争に介入してその司法的解決を勧奨するにとどまったが,10世紀末フランスに始まる神の平和運動の理念を継承して,王権も12世紀初頭以来,折々の機会をとらえて,1年ないし4年の期間,暴力行為を一般的に禁止ないし制限する法令を公布し,しばしば戦闘行為能力あるもの全員に〈平和〉を宣誓せしめた。…

※「フェーデ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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