現行犯の概念はローマ法の〈現行盗〉に由来するが,これは刑がとくに重く,極刑に処せられる点に特徴があった。しかし,のちにはその対象が広く他の犯罪にまで拡大される一方,強制処分(逮捕等)など手続的な面でのみ特別に扱われるようになった。日本の現行法も現行犯を強制処分についてのみ特別扱いしている。すなわち,憲法は,現行犯は令状なしに逮捕できるものとし(33条),これをうけて刑事訴訟法が詳細な規定をおいている(212~217条)。現行犯逮捕に令状がいらないのは,犯人が逮捕者に明白で裁判官の判断を経なくても人権侵害のおそれがないこと,逃走するおそれが大きいなど,ただちに逮捕する必要が大きいことなどによる。
刑事訴訟法は,現に犯罪を行い,または現に犯罪を行い終わった者を現行犯人としている。したがって,犯罪を開始してから行い終わったときまでの時間帯にある犯人が現行犯人であり,それ以後は現行犯人ではなくなる。この意味で,現行犯人は時間的概念である。犯罪を行い終わっている場合は,時間がたつと犯人の明白性はなくなるから,犯行の終了と逮捕の時間は接着していなければならない。さらに刑事訴訟法は,(1)犯人として追呼されているとき,(2)盗品や明らかに犯罪に用いられたと思われる凶器などを所持しているとき,(3)身体・被服に犯罪の顕著な証跡があるとき,(4)誰何(すいか)されて逃走しようとするとき,のいずれかにあたる者が犯罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合は,これを現行犯人とみなしている(いわゆる準現行犯)。このような場合犯人は明白であると考えられるからであるが,つねにそうとも限らないから,〈間がない〉という時間的範囲や〈明らかに認められる〉か否かについては,厳格に解しなければならない。現行犯逮捕は,警察官に限らず私人でも行うことができる。ただし,一定の軽微な罪については,犯人の住所・氏名が不明であるか逃走のおそれがある場合しか逮捕できない。必要であれば,逮捕のさい相当の実力を行使することが許され(判例),捜査機関は,人の住居などの中に入って犯人を捜し,また逮捕の現場で令状なしに差押え,捜索,検証をすることができる。私人が現行犯人を逮捕したときは,ただちに検察官か警察官に犯人を引き渡さねばならない。あとの手続は逮捕状による逮捕と同じである。
→逮捕 →令状主義
執筆者:平川 宗信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者(刑事訴訟法212条1項)。現行法では、すべての犯人が一時的にはかならず現行犯であり、時間の経過によって現行犯でなくなる。その時間的、場所的限界について、最高裁判所は、犯行後30~40分経過して、犯行現場から20メートルくらい隔たった場所にいたものを現行犯としている(昭和31年10月25日最高裁判所第一小法廷決定)。これに対し旧刑事訴訟法は、「現ニ罪ヲ行ヒ又ハ現ニ罪ヲ行ヒ終リタル際ニ発覚シタルモノヲ現行犯トス」(130条1項)とし、発覚の時点で現行犯ということになれば、時間の経過にかかわらずその身分は継続することになっていた。
日本国憲法は、現行犯の逮捕には逮捕令状を要しないとしており(33条)、刑事訴訟法によれば、原則として、捜査機関であれ私人であれ、何人(なんぴと)でも逮捕令状なしに現行犯を逮捕できる(213条、例外217条)。これは、犯罪の実行が明白で、司法的判断を経なくとも誤認逮捕のおそれがないからである。また、刑事訴訟法は、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるもので、次のいずれかに該当する場合を準現行犯として、「現行犯人とみなす」ことにしている(212条2項)。
(1)犯人として追呼されている。
(2)贓物(ぞうぶつ)(犯罪行為によって手に入れた他人の財物)または明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器(きょうき)その他の物を所持している。
(3)身体または被服に犯罪の顕著な証跡がある。
(4)誰何(すいか)されて逃走しようとする。
[大出良知]
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