量子力学では物理量が演算子になっている。この演算子を行列で表現すれば、物理量の関係や物理量の時間変化を与える力学の関係式は数学的には行列の方程式となる。このような行列表示をとった量子力学の形式を行列力学という。マトリックス力学ともよばれる。したがって、行列力学という特別の力学があるのではなく、量子力学の一つの表現形式である。
ハイゼンベルクはN・H・D・ボーアの原子模型から出発して量子力学の基本式をみいだした。ボーアの原子模型では、まず水素原子内電子を電子の座標と運動量を用いて古典力学に沿って求め、この軌道のうちボーアの与えた条件、すなわち量子条件に従うとびとびのものを選び出し、これらの軌道を電子のとる定常状態とみなすことにした。次に、電子がこれら定常状態の間を移ることによって光を放射・吸収すると考えた。この場合、放射・吸収する光のエネルギーは、電子が移る定常状態間のエネルギーの差に等しくなる。
ハイゼンベルクはこの事実に注目し、電子の座標qや運動量pは、時間の普通の関数でなく、任意の2組の定常状態m、nで特徴づけられる要素q(m, n), p(m, n)の集まりとして扱うべきであると考えた。いいかえれば、座標qと運動量pをいずれも行列で表示すべきものであることを提起し、量子力学の基本式
qp-pq=iħ(ħはプランク定数hの1/2π)
で与えられる交換関係を導いた(1925)。このため行列力学といえば、ハイゼンベルクに始まる行列表現をとった量子力学をさすのが普通である。
[田中 一]
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…行列力学ともいう。原子内の電子を記述する力学として,W.K.ハイゼンベルクが1925年に提唱したもので,古典力学から脱却し,量子力学の端緒となったものである。…
※「行列力学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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