行政広報(読み)ぎょうせいこうほう

改訂新版 世界大百科事典 「行政広報」の意味・わかりやすい解説

行政広報 (ぎょうせいこうほう)

国や自治体の行政機関がその施策の展開にあたって,国民苦情,要望,意見等を〈聴く〉(インテリジェンスの吸上げ)とともに,施策の内容と実施方法を〈語る〉ことによって国民の理解と支持を得るために行うコミュニケーション活動。行政広報という言葉は,ひろくは,民意の吸収を表す〈広聴〉と,民意への語りかけ(情報提供)を表す〈広報〉の両活動を含意している。たとえば〈広報と広聴は車の両輪のごとし〉というように。

 日本では,言葉としては,第2次大戦後アメリカ製のパブリック・リレーションズ(PR。組織体と公衆との信頼関係の意)の観念と結びつき,制度としては府県に〈PRオフィス〉を設けるという形で行政の民主化を目ざしたGHQ政策の一環として導入されたが,当初は,どちらかといえば行政の施策や意向周知徹底させ,それに従わせるという上意下達的な傾向が強かった。昭和30年代以降,行政活動の拡大とともに事前に住民の理解や協力をとりつける必要が増大し,また〈民はよらしむべし。知らしむべからず〉といった方式が通用しにくくなり,〈広聴〉活動と結びついた〈広報〉活動(広聴広報)が重視されるようになってきた。これは,国民各層が中央ないし地方の政府に何を期待しているかを知り,政府はそれらにいかにこたえつつあるか,何をしているのかを事実に即して正しく説明(パフォーマンス・リポーティングperformance reporting)する相互交流的なコミュニケーションとして〈行政広報〉が広く理解されるようになってきたことを意味している。

 こうした傾向は国や自治体で広聴広報を専担する組織が整備されるようになるとともに広聴広報手段にいろいろな工夫がなされるようになったことに現れている。とくにそれは自治体レベルで顕著である。ほとんどすべての自治体が〈--広報〉〈--だより〉と銘打った広報紙を定期的に発行し,新聞折込み,町内会,行政協力員等を通じ,全戸配布を目ざしているのは,他国に類例がない。広報活動の手段としては,広報紙,手引書要覧,報告書等の出版物の発行,マスコミへの一般的情報提供,広報車の利用,諸施設の公開見学,映画,スライドポスターの製作,ラジオ・テレビ番組の購入等が活用されている。広聴活動の手段としては,相談制度(行政相談)による苦情・要望の受付と処理,広聴集会・懇談会の開催,モニター制度の実施,世論調査・アンケート調査,広聴カード方式の採用,新聞その他の分析等が活用されている。

 広聴広報活動は,そのためにとくに設けられた専担部門が中心になって行う一般的なものと,各事業部門が必要に応じて行う個別的なものに分けうるが,いずれも外(国民)に対してこの活動を展開するために内(関係各部門)から〈聴き〉,内へ〈語る〉,すなわち〈庁内広報〉の活動と結びついている。この意味で行政広報は庁内の相互調整の手続に支えられることを条件にした行政と国民の相互交流のコミュニケーションである。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「行政広報」の意味・わかりやすい解説

行政広報
ぎょうせいこうほう

行政体と市民相互の意思疎通の円滑化を図り、行政体に対する好意的イメージの獲得を目的とする政府活動。第二次世界大戦後、民主化政策の一環としてアメリカから日本に導入されたパブリック・リレーションズpublic relationsの訳語で、当初、「広」く「報(しら)」せるというニュアンスで受容された。近年、地方公共団体を中心に市民の要求を積極的に探り、それを政策形成に生かすと同時に、市民を行政に近づけるための諸施策(広報)がとられてきており、一方、行政情報の公開に対する市民の要求に応じて、その制度化が実現されつつある。しかし中央政府段階では、市民との関係は依然として垂直的で、一方的な意思伝達の傾向が強い。今後、「開かれた政府」実現のためにも、行政広報に課せられる役割は大きい。

[中村紀一]

『井出嘉憲著『行政広報論』(1967・勁草書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android