改訂新版 世界大百科事典 「被害者補償」の意味・わかりやすい解説
被害者補償 (ひがいしゃほしょう)
人の生命または身体を害する犯罪行為により,不慮の死を遂げた者の遺族または重い障害を受けた者に対し,国が給付金を支給する制度。〈犯罪被害給付制度〉ともいう。最近まで日本にはこのような制度がなかったが,従来の法制度の下では,通り魔的な殺人,傷害,爆弾事件等の被害者やその遺族に対する民事上の損害賠償による救済が,加害者の無資力や不明等により,ほとんど機能しておらず,労働災害や自動車事故等の補償に比べて不均衡を生じていたこと,および刑事司法制度自体には被害者の救済につき格別の考慮をはらうところが乏しかったという事情があった。加えて外国でも1960年代から70年代にかけて,ニュージーランド,イギリス,アメリカ諸州,オーストラリア,カナダ,スウェーデン,オーストリア,フィンランド,西ドイツ,オランダ,フランスが,制度の枠組みの差こそあれ,次々と被害者救済制度を新設,日本でも,国民の法制度に対する不信感を除き,損害賠償の補充,刑事政策上の要請,および苦境にある被害者やその遺族に対する福祉の拡充を目的として,80年,犯罪被害者等給付金支給法が制定された。通り魔的犯罪の被害の救済という趣旨から〈犯罪行為〉は必ずしも刑法上の〈犯罪〉の概念とは一致せず,責任無能力者の行為など刑法上処罰されない行為も含まれる反面,加害者の〈過失による行為〉等は含まれない(2条1項)。給付金は一時金として支給され(3条,4条),その金額の算定は法および政令の定めるところによる(9条。なお,死亡の場合の遺族への給付金額は最低約220万円,最高約1000万円)。給付金支給に関する裁定は都道府県公安委員会が行うものとされている(10~14条)。
執筆者:酒巻 匡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報