犯罪被害者等(遺族を含む)のための施策の基本理念を明らかにしてその方向性を示し、国、地方公共団体、その他の関係機関、民間の団体等の連携の下、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進するための法律。平成16年法律第161号。2004年(平成16)12月1日に議員立法によって成立し、2005年4月1日に施行された。日本で初めて被害者の権利利益を明らかにした法律である。とくに、その前文では、これまでの被害者に対する人権侵害、不十分な支援など、被害者の苦境について言及し、被害者の保護が図られた社会の実現を目ざすことを明記している。
概要としては、第1条で目的(犯罪被害者の権利利益の保護)を示し、犯罪被害者等のための施策に関する基本理念、および国、地方公共団体、国民の責務と施策の基本事項を規定し、第2条では、対象として犯罪等(犯罪およびこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為)の被害者等を定義して、被害者本人、その家族・遺族を示している。また、第3条では、三つの基本理念を提示して個別に規定している。その基本理念とは、(1)犯罪被害者等は個人の尊厳が尊重され、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有すること、(2)被害の状況および原因、犯罪被害者等がおかれている状況等の事情に応じた適切な施策を講じること、(3)ふたたび平穏な生活を営めるまでの間、とぎれることなく支援を行うこと、である。そして、第8条では、被害者施策を総合的かつ計画的に推進するために、犯罪被害者等基本計画を策定することを規定している。さらに、11条から23条において、基本的施策を列挙し、相談・情報の提供(11条)、損害賠償の請求についての援助(12条)、給付金の支給に係る制度の充実(13条)、保健医療サービス・福祉サービスの提供(14条)、犯罪被害者等の再被害防止・安全確保(15条)、居住・雇用の安定(16条、17条)、刑事手続への参加の機会を拡充するための制度の整備(18条)、保護・捜査・公判等の過程における配慮(19条)、国民の理解の増進(20条)、調査研究の推進(21条)、民間団体に対する援助(22条)、意見の反映・透明性の確保(23条)など、かなり広範囲の被害者支援策が盛り込まれているが、これらはいわば総論にすぎず、これらの施策に従い、具体的な対応策の法整備が求められた。
そこで、2005年(平成17)4月に政府内に犯罪被害者等施策推進会議(会長・内閣官房長官)が、またこの下に、学者、被害者、弁護士、精神科医、新聞記者、関係省庁審議官などをメンバーとする犯罪被害者等基本計画検討会が設置された。ここでは、(1)損害回復・経済的支援等への取組み、(2)精神的身体的被害の回復・防止への取組み、(3)刑事手続への関与拡充への取組み、(4)支援等のための体制整備への取組み、(5)国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組みが議論された。この議論をもとに基本計画案が取りまとめられて、最終的に同年12月に政府は犯罪被害者等基本計画を閣議決定した。その結果、実に、四つの基本方針、五つの重点課題、258に上る具体的施策が盛り込まれた。その後、基本計画に沿って法制度が検討され、たとえば、犯罪被害者給付金制度の拡充、刑事裁判における被害者参加制度と国選被害者参加弁護士制度の創設、損害賠償命令制度の創設、少年審判における傍聴制度の創設、犯罪者の仮釈放についての被害者の意見の聴取、犯罪被害者支援ハンドブック・モデル案の作成などに結実した。
このように、欧米諸国に比し著しく遅れているとされてきた日本の被害者支援策もかなり充実する方向にある。この犯罪被害者等基本法は、従来欠落していた被害者に対する基本理念や被害者の権利概念を構築するとともに、すでに以前から個別に講じられていた諸策、たとえば、犯罪被害者等給付金支給法(1980年)、警察庁による被害者連絡制度(1997年)、検察庁による被害者等通知制度(1999年)、犯罪被害者保護二法、少年法改正、ストーカー規制法(いずれも2000年)、DV防止法(配偶者暴力防止法。2001年)などにおける被害者保護策をさらに拡充し、不足部分を補完したものである。これらと連動して法テラスや弁護士会、地方自治体においてもこの趣旨を生かした被害者支援活動が展開されている。たとえば損害賠償命令制度では高額の賠償命令判決が出されても受刑者が支払うことはほとんどなく実効性に乏しい。また被害者への弁護士支援も継続性が問題であるとされ、支援の必要な被害者に十分行き渡っていないのが現実である。これらを改善するには、関係機関が連携することが必要である。他方で、政府は被害者運動や国民世論にこたえる形で、刑罰の強化、つまり厳罰化、重罰化を進めており、これらの流れとあわせて、犯罪行為と刑罰との不均衡、犯罪者処遇、犯罪者社会復帰の停滞なども指摘され、被害者保護のあり方や方向性が逆に問われる状況もみられる。
[守山 正 2018年5月21日]
『椎橋隆幸他「犯罪被害者のための施策の総合的検討」(『ジュリスト』1302号所収・2005・有斐閣)』▽『高井康行・番敦子・山本剛著『犯罪被害者保護法制解説』第2版(2008・三省堂)』▽『岡村勲監修、守屋典子・高橋正人・京野哲也著『犯罪被害者のための新しい刑事司法――解説被害者参加・損害賠償命令・被害者参加弁護士・犯給法』第2版(2009・明石書店)』▽『警察庁編『犯罪被害者白書』各年版(警察庁HP)』
(土井真一 京都大学大学院教授 / 2007年)
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