改訂新版 世界大百科事典 「裁付」の意味・わかりやすい解説
裁付 (たっつけ)
山袴(やまばかま)の一種で,膝から下がぴったりしたもの。裁着,立付とも書く。前布,後ろ布合わせて4枚と四角い襠(まち)で作られる。前布の下方を膝下に合わせて筒状に縫ってぴったりさせ,そのあと後ろ布や襠を縫い合わせるため後ろ布は前布の2/3程度しかないが,腰回りはゆったりとして動きやすく暖かで下半身を保護する。材料はかつては皮革,藤布,麻が用いられたが,明治以降は紺や黒無地,縞の木綿が多い。男子用には前布の襠つけ部分に12cmくらいの開口部がつけられている。起源は室町末期といわれ,地方武士たちの狩猟用であった。江戸時代に入り,元禄年間(1688-1704)ころまではもっぱら武士のものであったが,その後武士の着用がすたれ,享保期(1716-36)前後からは庶民層が着始めた。江戸では呉服屋の下男,魚屋,相撲の呼出し,角兵衛獅子などが用いた。《嬉遊笑覧》には〈たちつけは裁付にて股(もも)はき脚絆を合せ作りたるものなるべし〉とあるが,たっつけの語源は必ずしも明らかではない。その後,地方農山村にも広がり,日本全域に普及したが,とくに東北地方,新潟,富山,長野に多く見られた。名称も東北ではタッツケ,スネコタヅギ,マツカタヅギ,スネコデタチ,サルッパカマ,サルモモヒキと呼ばれていた。現在も福島県の会津地方ではサルッパカマと呼び,中年以上の男性の農作業着として着用されている。
→山袴
執筆者:日浅 治枝子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報