日本大百科全書(ニッポニカ) 「裁判迅速化法」の意味・わかりやすい解説
裁判迅速化法
さいばんじんそくかほう
裁判の迅速化等を図る目的で2003年(平成15)に制定された法律。正式名称は「裁判の迅速化に関する法律」(平成15年法律第107号)。裁判迅速化法は、司法を通じて権利利益が適切に実現され、司法がその役割を十全に果たすためには、公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行われることが不可欠であることから、第一審の訴訟手続をはじめとする裁判所における手続全体のいっそうの迅速化を図り、もって国民の期待にこたえる司法制度の実現に資することを目的としている(裁判迅速化法1条)。これにより、第一審の訴訟手続については2年以内のできるだけ短い期間内にこれを終局させることを目標として、充実した手続を実施すること、ならびにこれを支える制度および体制の整備を図ること(同法2条1項)とされた。
憲法第37条第1項は、迅速な裁判を受ける権利を被告人に保障した。刑事訴訟法第1条も、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することを刑事訴訟法の目的としている。最高裁判所も、15年間も公判期日が定められなかった高田事件(1952年に愛知県名古屋市で発生した高田巡査派出所への襲撃を含む集団暴力事件。審理途中で15年余の中断があった)について、憲法の迅速な裁判の保障に反する異常な事態が生じたときには、もはや審理の続行を許さず、免訴の判決で手続を打ち切るべき旨を判示した(最高裁判所昭和47年12月20日大法廷判決)。
とくに、裁判員の参加する裁判では、審理を迅速でわかりやすいものとする(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律51条)ことが求められる。そのために、できる限り公判を連日開廷することができるようにするための規定(刑事訴訟法281条の6)、公判審理を継続的、計画的かつ迅速に行うための公判前整理手続の制度などが導入された(同法316条の2、316条の3)。なお、特別な事件についての法律規定として、たとえば、選挙違反事件についてのいわゆる百日裁判規定がある(公職選挙法213条・253条の2)。これは、事件を受理した日から100日以内に判決するよう努める義務を定めたものであるが、おもに政治家の地位に影響を及ぼす刑事事件を早期に確定する趣旨の規定である。
裁判迅速化法は、裁判の迅速化の現状を検証して、その結果を2年ごとに国民に公表することを最高裁判所に求めている(裁判迅速化法8条)。2016年(平成28)の民事第一審訴訟事件は、平均8.6か月であり、刑事第一審訴訟事件は、平均3.2か月(自白事件は2.6か月、否認事件は8.7か月)となっている。なお、裁判員対象事件では平均10.0か月となっている。
[田口守一 2018年4月18日]