公判前整理手続(き)(読み)コウハンゼンセイリテツヅキ

デジタル大辞泉の解説

こうはんぜん‐せいりてつづき【公判前整理手続(き)】

刑事裁判の充実・迅速化を図るために導入された方式。第1回公判前に裁判官検察官弁護人非公開で協議し、事件の争点や採用する証拠・証人などを整理し、審理計画を立てる。公判は集中して行われ、短期間で結審する。
[補説]改正刑事訴訟法により平成17年(2005)11月より実施。平成21年(2009)から施行裁判員制度に対応するための方策。報道などでは「こうはんまえ~」と呼ばれることがある。

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百科事典マイペディアの解説

公判前整理手続【こうはんぜんせいりてつづき】

刑事訴訟手続において,裁判所が〈充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うため必要がある〉と判断したとき,検察官および被告人または弁護人の意見を聴き,第1回公判期日前に争点および証拠を整理する公判準備を決定できる制度(刑事訴訟法316条など)。司法制度改革の一環として,2004年5月に成立した改正刑事訴訟法により2005年11月に導入された。2009年5月までに導入される裁判員制度を視野に入れ,適正・迅速でわかりやすい公判審理を目的とする。従来公判で行われていた手続きが非公開となるため,裁判の公開の原則に反するという意見もある。
→関連項目即決裁判手続制度

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大辞林 第三版の解説

こうはんぜんせいりてつづき【公判前整理手続】

刑事裁判の初公判に先立って、裁判所が検察官・弁護士を集めて、事件の争点と証拠を整理する手続き。手続きを実施するかどうかは、裁判所が決定する。公判の迅速化を目的に 2005 年(平成 17)に開始。 〔裁判員制が適用されるすべての裁判においてこの手続きが行われる〕 → 裁判員制

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

公判前整理手続
こうはんぜんせいりてつづき

刑事訴訟における第1回公判期日前に、公判において当事者が主張する予定の事実を明示させ、証拠調べの請求をさせ、また、証拠開示を徹底して行わせる等により、十分な審理計画を策定するための手続をいう。通常の準備手続に比べて公判準備の程度を格段に強化している。2004年(平成16)の刑事訴訟法改正により導入された(刑事訴訟法316条の2以下)。
 充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うために必要があると認められる事件を対象とし、受訴裁判所の主宰で行われる。公判前整理手続は、裁判所の職権により決定されるとするのが最初の制度であったが、2016年の刑事訴訟法改正により、当事者に公判前整理手続の請求権が付与された。ことに、裁判員の参加する公判手続においては、裁判員の選任手続以前に公判の予定期間を明らかにしておく必要があるとともに、できる限り連日開廷するための公判準備をしておく必要があることから、裁判員裁判では公判前整理手続をかならず行わなければならないとされている(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律49条)。検察官および弁護人の出席が必要で、被告人に弁護人がいないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。被告人は、公判前整理手続に出頭することができるし、また、裁判所は、被告人の出頭を求めることができ、その場合には、黙秘権の告知がなされる。
 その内容は多岐にわたり、(1)争点整理に関する事項として、訴因または罰条を明確にさせ、その追加、撤回または変更を許し、さらに、公判期日においてすることを予定している主張を明らかにさせて事件の争点を整理すること、(2)証拠整理に関する事項として、証拠調べの請求をさせ、請求があった証拠について、その立証趣旨、尋問事項等を明らかにさせ、請求に関する意見を確かめ、証拠調べの決定またはこれを却下する決定をし、証拠調べの順序および方法を定め、証拠調べに対する異議の申立てに対して決定をするなど、さらに、(3)証拠開示に関する事項として、おもに検察官による被告人または弁護人に対する証拠開示の範囲が広く認められることとなったが、その調整が必要となった場合に証拠開示の裁定をすること、そして、(4)審理計画に関する事項として、公判期日を定めること等がある(同法316条の5)。
 事件が公判前整理手続に付されたときは、(1)検察官は、証明予定事実を記載した書面(証明予定事実陳述書)を裁判所に提出し、被告人または弁護人に送付しなければならない(同法316条の13第1項)。証明予定事実とは、公判期日において証拠により証明しようとする事実であり、検察官は、事件の争点および証拠の整理に必要な事項を具体的かつ簡潔に明示しなければならない。証明予定事実の明示により、被告人側の証拠意見および主張の明示が可能となり、また、裁判所が争点と証拠を整理し、審理予定を策定することも可能となる。検察官は、証明予定事実の提示とともに、その証明に用いる証拠の取調べを請求しなければならない(同法316条の13第2項)。
 (2)検察官は、取調べを請求した証拠について、速やかに被告人または弁護人に証拠開示をしなければならない(同法316条の14第1項)。これを請求証拠の開示とよぶ。検察官は、請求証拠の開示をした後、被告人または弁護人の請求があったときは、速やかに被告人または弁護人に対し、検察官が保管する証拠の一覧表(実務上、証拠リストともよばれる)を交付しなければならない(同法316条の14第2項)。この交付制度は、被告人側に類型証拠または争点関連証拠の円滑な開示請求の手がかりを与えるために2016年の刑事訴訟法改正により導入された制度である。(3)検察官は、(2)で開示した以外の証拠であって、法律の掲げる類型のいずれかに該当し、かつ、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められる証拠について、被告人または弁護人から開示請求があった場合、被告人の防御の準備のための必要性の程度と開示による弊害の内容・程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに開示する(同法316条の15第1項)。これを類型証拠の開示とよぶ。法律が掲げる類型証拠は9種類あるが、そのなかには、検察官が証人尋問を請求した者の供述録取書等(同法316条の15第5号イ)も含まれる。さらに、身体の拘束を受けている者の取調べに関し、その年月日、時間、場所その他の取調べ状況を記録したものも開示対象とされるが、2016年の刑事訴訟法改正により、そこには被告人のみならず共犯者の取調べ状況の記録書面も含まれることとなり(同法316条の15第8号)、従来証拠開示をめぐって紛議のあった証拠の多くが開示対象となった。
 さらに、(4)被告人または弁護人は、検察官の証明予定事実の提示および請求証拠の開示ないし類型証拠の開示を受けたときは、被告人側の証明予定事実その他の公判においてすることを予定している事実上および法律上の主張があるときは、これを明示しなければならない(同法316条の17第1項)。これにより争点を設定したときは、それを証明するために用いる証拠の取調べを請求しなければならない(同法316条の17第2項)。また、取調べ請求証拠は検察官に証拠開示しなければならない(同法316条の18)。(5)検察官は、被告人側が争点を明示した場合に、争点に関連すると認められるものについて、被告人側から請求があったときは、その関連性の程度、被告人の防御にとっての必要性の程度、開示に伴う弊害の内容・程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに証拠開示をする(同法316条の20)。これを争点関連証拠の開示とよぶ。
 (6)以上の証拠開示手続について調整が必要となった場合における裁判所の裁定には、3種類のものがある。第一は、証拠開示の時期、方法あるいは開示の条件に関する裁定であり(同法316条の25)、第二は、証拠開示命令である(同法316条の26)。そして、第三として、以上の裁定にとって必要な場合における証拠提示命令(同法316条の27第1項)および証拠の標目を記載した一覧表の提示命令(同法316条の27第2項)がある。なお、(7)証拠開示制度の拡充に伴って、証拠開示実務の適正に関する規定も整備された。弁護人は、開示された証拠は適正に管理し、みだりにその保管を他人にゆだねてはならず(同法281条の3)、また、被告人もしくは弁護人は、開示された証拠を開示された目的以外の目的で使用することも禁止されている(同法281条の4第1項)。[田口守一]

公判前整理手続に付された事件の公判手続

公判前整理手続で被告人または弁護人が争点を設定したときは、公判手続における被告人または弁護人による冒頭陳述を行うことが必須の条件となる。なお、裁判員裁判における冒頭陳述については、検察官も、被告人・弁護人も、公判前整理手続における争点および証拠の整理の結果に基づき、証拠との関係を具体的に明示してこれを行わなければならない(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律55条)。
 公判前整理手続に付された事件については、裁判所は、当事者の冒頭陳述の後、公判前整理手続の結果を明らかにしなければならない(刑事訴訟法316条の31)。裁判員は公判前整理手続には関与しないので、これにより、争点と証拠の整理の内容を知ることができる。
 検察官および被告人または弁護人は、やむを得ない事由によって請求することができなかったものを除き、公判前整理手続が終わった後には、証拠調べを請求することはできない(同法316条の32)。公判前整理手続の証拠整理に拘束されることなく、公判で新たな証拠調べ請求ができるとなると、公判前整理手続における証拠整理の実効性が担保されないこととなるからである。[田口守一]

期日間整理手続

裁判所は、審理の経過にかんがみ必要と認めるときは、検察官および被告人または弁護人の意見を聴いて、第1回公判期日後に、事件の争点および証拠の整理をするための公判準備として、公判前整理手続に準じた手続である期日間整理手続の決定をすることができる(刑事訴訟法316条の28)。公判において新たな争点が浮上したために、あらためて争点の整理と証拠の整理をする必要が生じたような場合、決定させると考えられる。[田口守一]

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