磁山文化とならぶ中国華北の初期新石器文化。河南省の黄河以南の鞏県,登封県,密県,中牟(ちゆうぼう)県に分布するが,指標となった裴李崗遺跡は新鄭県の双洎河北岸の丘陵上に位置する。1977-79年に3次の調査が行われた。遺跡は文化層,墓,灰坑,陶窯からなり,墓は長方形土壙に単人を仰臥伸展葬にしたものである。第2次調査でアワと思われる炭化穀物が確認され,豚・羊・犬・牛骨,豚や羊の頭部土偶も出土しており,畑作による農耕と家畜飼養が行われていたと考えられる。
生産工具には石鏟(せきさん),石斧,石鑿,石鎌,石庖丁,石磨盤,石磨棒がある。石鏟には扁平磨製の両端が円弧をなす牛舌状と有肩状の2種があるが前者が多い。石斧は大小の二つがあり,平面形は台形に近く扁平な磨製品である。石庖丁は扁平石片に磨きを加えた簡単なものであるが,精巧な磨製品も出現している。この文化を特徴づける生産工具は石鎌と磨盤,磨棒である。石鎌は鋸歯をなした直刃に幅広の背がつき,基部には着柄のための抉りが上に1,下部に1~2個付けられ,穿孔したものもある。仕上げは精細で出土量も多い。石鎌の出現は従来竜山文化期からといわれていたが,より早い段階から出現することがわかった。製粉用の石皿に相当する磨盤は長さ50~100cmの大型で,平面が靴底状や楕円形をなし,底部には四つの足が付いている精巧なものである。これとセットをなす磨棒(すり石)は長さ40cmあり,元来円柱状をなすが,使用によって中央はへこみ,両端は瘤状に残っている。石鎌と磨盤,磨棒の共伴出土は河北の磁山文化,山東の北辛文化など華北各地の初期農耕遺跡に共通してみられる現象である。土器は泥質紅陶,夾砂紅陶の手製で,鼎(てい),缶(かん),三足器,双耳壺,三足付双耳壺,盆,有脚碗などがあるが,大小の三足器,双耳壺,長胴の有瘤缶などが特徴的である。炭素14法による測定数値は六つの年代が報告されているが,上限は前6000年というのが妥当と推定されている。
執筆者:下條 信行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…中国の黄河中流域に栄えた新石器時代晩期の農耕文化。ヤンシャオ文化とも呼ぶ。老官台文化,裴李岡文化に遅れ竜山文化に先立つ。1921年J.G.アンダーソンが河南省澠池(べんち)県において発見した仰韶遺跡にちなんで名付けられた。従来,彩陶文化と同義に使用されてきたが,仰韶文化の基本要素は紅陶で,彩陶は一つの重要な特徴にすぎない。完全に定住生活を営み,アワ,キビ,カラシナを栽培し,犬や豚などの家畜を飼育するとともに狩猟,漁労も並行して行われた。…
※「裴李崗文化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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