中国,黄河中下流域の新石器時代後半期の文化。初め,山東省歴城県竜山鎮城子崖の発掘によって得た黒陶を特徴とする文化とされたが,新中国建設後の黄河中流の調査によって2系統の竜山文化があることがわかり,以後山東省のそれは山東竜山文化,または典型竜山文化と称されるようになった。
黄河中流の竜山文化は陝西,河南,山西南部,河北南部,安徽北西部に広がり,仰韶(ぎようしよう)文化より興ったものである。前後の2段階に分かれ,前段階は河南省陝県廟底溝第2期文化に代表される。陝西,山西,河南が交界する潼関地区と河南の洛陽,鄭州の鄭洛区に分布し,前者には廟底溝,平陸盤南村,芮城西王村上層,華県泉護村,華陰県横陣村,後者には洛陽王湾,鄭州大河村などの遺跡がある。土器は粘土紐を積み上げた夾砂灰陶,泥質灰陶を主とし,黒陶は少ない。器壁は厚く,器表には藍文,縄文,貼付文が付され,彩文は少ない。小口尖底瓶,大口深腹缶など仰韶文化の系譜を引く土器のほか,炊器である鼎,鬲(れき),斝(か)の三足器が現れる。打製石器は減少し,磨製石器が増大する。伐採石斧は重厚となり,方形石庖丁に加え,外湾刃半月形石庖丁,石鎌が出現し,農業生産が高まる。豚,犬,牛,羊,鶏の家畜飼養が進み,豚骨の出土が多くなる。住居は半地下式で,床には草まじりの泥を敷いた上に3~5cmの白灰面を塗り,貯蔵穴は多くは袋状をなしている。墓は仰身の単人竪穴墓で氏族共同墓地を構成している。廟底溝遺跡の炭素14法による年代は前2780±145年である。
後段階は河南竜山文化,陝西竜山文化,山西南部竜山文化に分かれる。河南竜山文化は後岡(こうこう)第2期文化に代表され,河南,河北南部,山東西部,安徽西北部に広がり,東部では山東竜山文化を共伴し,河南南西部では屈家嶺文化の上層にのる。また二里頭遺跡では竜山文化晩期層の上に殷代早期の文化層がある。洛陽王湾,臨汝煤山,安陽後岡,永城王油坊,陝県三里橋などが代表遺跡である。陝西竜山文化は長安県客省荘第2期文化を標識とし,臨潼姜寨遺跡など関中の渭水流域に広がる。甘粛の斉家文化と関連をもち,東には河南竜山文化と接する。山西南西の汾河流域には襄汾陶寺文化がある。土器は轆轤(ろくろ)で作った灰陶を主とし,鬹(き)や甗(げん)が新出する。集落は住居数が増大し,後岡では地上建築,関中では半地下の呂字式竪穴住居が出土している。湯陰白営では木枠をもつ井戸もある。後岡,登封王城岡,淮陽平粮台には1辺70m以上の方形の城壁も出土している。墓は単人,仰臥伸展の長方形土壙墓で,土器,玉石器,豚下顎骨を副葬するものが現れる。河南竜山文化の炭素14法年代は,前2625±145~前2005±120年の値がでている。
山東竜山文化は大汶口(だいぶんこう)文化を継承発展させた黒陶文化で,山東,江蘇北部に広がる。山東の濰坊姚官荘,膠県三里河,日照東海峪,諸城呈子,泗水伊家城,臨沂大范荘,江蘇徐州高皇廟が代表遺跡である。初期には黒陶と灰陶が半ばするが,のちに泥質黒陶が主となって,この文化を特徴づける。黒陶は轆轤で規整に作られ,器壁は等しく薄く,光沢をもつ。卵殻黒陶の高柄足杯,単耳杯,三環足盤,烏頭足鼎,長頸鬹,甗を特徴器種とし,凹凸の弦文,竹節文,透し彫,凸帯で飾る。大汶口文化の習俗を継承し,抜歯,頭骨変形を行い,獐牙や豚頭骨を随葬する。炭素14法では前2405±170~前1805±145年の値を得ている。山東竜山文化は遼東半島の新石器文化に強い影響を与えている。
執筆者:下条 信行
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中国の黄河中・下流域で仰韶(ぎょうしょう)文化に次いで興った新石器時代晩期の農耕文化。中国読みでロンシャン文化ともいう。1930~31年に李済(りさい)、梁思永(りょうしえい)らによって山東省歴城県竜山鎮の城子崖(じょうしがい)遺跡が調査されたとき、上下二層ある文化層のうちの下層から多数の石器、貝器、骨角器とともに黒色磨研の土器(黒陶(こくとう))が発見され、黄河流域の重要な先史土器として注目された。竜山文化の名はこの遺跡名に由来する。その後、河南省安陽県後岡(こうこう)遺跡において、仰韶文化層の上に竜山文化層、そしてその上に殷(いん)代の文化層の層序関係が発見され、この文化の編年的位置が定まった。さらに1950年代に河南省陝(せん)県廟底溝(びょうていこう)遺跡の調査において、下層の仰韶文化層のすぐ上の層が仰韶文化から竜山文化への過渡的性格のものであることから、竜山文化が仰韶文化から連続発展したものであることが確かめられた。
竜山文化の広がりは仰韶文化よりもはるかに広く、しかも各地域ごとに特徴をもって成長して著しい地域差を示している。したがって竜山文化は、早期の廟底溝第二期文化、河南竜山文化(後岡第二期文化)、陝西(せんせい)省竜山文化(客省荘第二期文化)、山東竜山文化の四類型がある。さらにまた、周辺部にも大きな影響を与え、北は渤海(ぼっかい)を隔てて遼東(りょうとう)半島に伝わり、西北にも伝わって斉家(せいか)文化を生み出した。揚子江(ようすこう)流域の良渚(りょうしょ)文化もその例である。竜山文化の特徴は、土器製作にろくろを使って緻密(ちみつ)で堅く卵殻のように薄い黒陶がつくられたことである。黒陶の器形には鼎(かなえ)、鬲(れき)、斝(か)、甗(げん)、(き)などの三足器があり、こののちずっと続く中国の陶器や青銅器の基本的な器形がだいたい出そろっている。住居は竪穴(たてあな)式のものであるが、床面に石灰を塗り固めるものが盛行した。磨製石器は一段と精巧なものとなり、石や貝製の鎌(かま)、骨製の鋤(すき)、木製の鋤(耒(らい))など新しい農具が登場し、農業経済は著しい発展を遂げた。さらに動物の骨を焼いて吉凶を占う卜骨(ぼっこつ)の風習が始まった。すでに青銅製品が登場していることや土器製作の専業化など、生産の各分野における著しい技術的な発達は、古い生産関係を打破して高文明の生まれる諸条件を整え、やがて夏(か)王朝を生み出す母体となった。したがって竜山文化は、その後ずっと繁栄してゆく中国文明の母体ともいいうる黄河文明の中核をなしているのである。C‐14による年代は紀元前2500年から前1700年を示している。
[横田禎昭]
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中国の新石器時代後期(前2500~前2000年)の文化。山東省歴城県城子崖(じょうしがい)遺跡の所在地竜山鎮にちなむ。漆黒色の光沢ある表面を持つ土器で,黒陶(こくとう)とも称する土器を特徴とする。土器の分布は,陝西(せんせい),山西,河南,山東などの各省にわたり,石器,骨角器,貝器を伴う。器形としては,壺,杯,盤(ばん),鼎(てい),斝(か),簋(き)などがあり,殷(いん)周青銅器との関連を思わせる。なお,この文化には山東を中心とする典型的なもののほかに仰韶(ぎょうしょう)文化の系統をひく黄河中流域の文化も含まれ,その多様性が認められている。
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…広義には土器の表面が黒色を呈するものの総称で,新石器時代の各時代にある。狭義には炭素を吸着させた黒色の土器をさし,主として,ろくろによってつくる竜山文化の黒陶をいう。かつて,中原地方の仰韶文化を代表する彩陶に対して,山東地方の竜山文化を代表する黒陶という認識から竜山文化を黒陶文化とよんだこともある。…
…このように,地勢や気候からみて,山東は華北平原のなかで最も安定した自然条件をもつ地域であるといえよう。
【斉魯文化】
[大汶口文化と竜山文化]
新石器時代,黄河中下流域には多様な文明が形成されたが,山東では約5000年前,大汶口(だいぶんこう)文化(泰安県大汶口遺跡を代表遺跡とする)と呼ばれる進んだ文化が,ほぼ山東全域に広がっていた。この文化は,同時期に西の中原地方にみられる仰韶文化とはやや性格を異にし,むしろ江南地方から淮河(わいが)下流域にみられる青蓮崗文化と共通するところが多く,山東より沿海に長江(揚子江)下流域まで続く,一連の文化が形成されていたと考えられる。…
…1930年に李済,董作賓,郭宝鈞,呉金鼎らが山東古蹟研究会を創設し,30,31年に発掘を行った。当時,仰韶(ぎようしよう)文化と安陽殷墟の空白を埋める遺跡として注目され,竜山文化の名称のおこりとなった。遺跡は上・下2層からなり,上層は灰陶や窯址を出土する戦国時代の文化層で,下層が黒陶を特徴とする竜山文化の層である。…
…【中村 友博】
【中国】
中国で現在,青銅製の道具や容器の鋳造が確実に知られているのは河南省堰師(えんし)の二里頭文化(前1900~前1500ころ)の後半期からである(二里頭遺跡)。これより時代のさかのぼる竜山文化(前3千年紀後期から前2千年紀初め)ないしそれと並行する文化のいくつかの遺跡から出土した,合金にしない銅の製品が以前より若干知られていた。竜山文化に並行する甘粛省の斉家文化遺跡(斉家坪遺跡)から銅製の道具,装飾品などが発見されるのは顕著な例である。…
…1953年に発見され,56,57年に黄河水庫考古工作隊が調査。遺跡は黄河支流の青竜澗の南岸台地にあり,仰韶文化(廟底溝第1期文化),仰韶文化から竜山文化への過渡期(廟底溝第2期文化),河南竜山文化,東周時代の4期の文化層が確認され,竜山文化が仰韶文化から派生したものであることが,初めて証明された。仰韶文化は廟底溝類型と呼ばれ,方形の竪穴式住居址,貯蔵穴,墓葬が発見されている。…
※「竜山文化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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