日本大百科全書(ニッポニカ) 「製陶業」の意味・わかりやすい解説
製陶業
せいとうぎょう
陶磁器を製造する工業。陶磁器工業ともよぶ。祭器、生活器としての製陶の歴史は、石器時代後の人類の歴史とともにあるといえるほど長期に及ぶが、21世紀現在、製陶業は大別して飲食器、置物などの生活用陶磁器と、衛生陶器、タイルなどの建築用陶磁器、そして碍子(がいし)などの工業用陶磁器に分類される。とくに近年、ファイン・セラミックス(ニューセラミックス)とよばれる電子工業用特殊磁器部門の発展は著しく、産業としての製陶業は大きな構造変化を迎えつつある。
日本での陶器生産は縄文時代にさかのぼるが、16世紀に朝鮮半島より磁器が伝わり、江戸時代には全国に製陶産地が形成された。幕末の開国とともに、日本製陶磁器は欧米のジャポニスム・ブームの影響もあり輸出製品として注目された。しかし、本格的な輸出産業としての成長は、洋食器生産に進出した日本陶器(現ノリタケカンパニーリミテド)の登場が嚆矢(こうし)となる。1904年(明治37)に森村市左衛門(もりむらいちざえもん)が創業した同社は、その後も内部から、衛生陶器の東洋陶器(現TOTO)、電気部品用陶磁器生産の日本碍子(現、日本ガイシ)などを輩出し、第二次世界大戦前には森村財閥を形成した。今日においても森村グループとよばれる総合的陶磁器製造業グループを形成し、国内製陶業の売上上位を独占している。その他では、森村グループから分離した衛生陶器のINAX(旧伊奈製陶、現LIXIL(リクシル))、工業用セラミックス製造で成長した京セラなどが有力企業といえる。
2008年(平成20)工業統計表で製品出荷額をみると、和洋飲食器が623億円、衛生陶器が872億円、工業用陶器が4762億円であり、産業の中心は工業用陶磁器に移行したことがわかる。とくにファイン・セラミックス製のIC基板・ICパッケージは、単独で1934億円の出荷額を誇り、工業用セラミックスの中核をなしている。産地としては森村グループ企業が多く立地し、また伝統産地も多く抱える、愛知、岐阜、三重、滋賀、大阪などの東海・近畿諸府県と福岡、佐賀、長崎、鹿児島などの九州諸県のシェアが大きい。事業所数は、量産陶器製造業者が2008年時点で約2000あり、伝統部門では中小企業が多いものの、工業用陶器製造では集積が進み、寡占状況にある。
輸出については、1960年(昭和35)の44.2%から1980年の30.0%と販売額ベースでの輸出依存度は漸減傾向にあり、1980年代以降の円高と、新興国の成長により各部門ともに輸出環境は厳しさを増しつつある。こうしたなかで日本企業は、製造拠点の海外移転を進めつつ、衛生陶器を中心に、成長著しい中国・インド等の新興国への進出に活路を求めつつある。また、ファイン・セラミックス需要の急増により、業界の中心が工業用セラミックスに移る一方で、伝統産業産地も、製品の多様化や技術の伝承を通じて、産地としての生き残りの途を模索しつつある。
[殿村晋一・永江雅和]