翻訳|insulator
電気導体を絶縁し支持する目的で用いられる固体絶縁物。その絶縁体には通常磁器を用いるが,その理由は電気絶縁性がよい,屋外で使用しても変質しない,機械的に強い,原料が豊富で比較的安いなどである。高電圧の電気設備の外部絶縁はすべてがいしによっているので,その種類は非常に多いが,その中のおもなものは次のとおりである。
発電所から変電所まで電気を送る送電線には,図1の懸垂がいしがもっとも広く使用される。このがいしは連結できるようになっていて,その方法には図2に示すようにクレビス形とボールソケット形とがある。送電電圧に応じて適切な連結個数が選ばれる。がいしは塵埃や海塩で汚れると,絶縁体の表面を漏れ電流が流れ,絶縁性能が低下する。これを最小限に抑えるために,下面にひだがつけられている。このひだは深いほど効果があるので,海岸や工場地帯を走る送電線には,耐塩がいしまたは耐霧がいしと呼ばれている図3に示すひだの深いがいしが使用される。もっとも一般的な懸垂がいしは,直径250mm,引張強度12tのものである。耐電圧は,塩分付着密度や氷雪の付着などによって変わるが,1個当り10~15kVである。送電の初期のころには図4のピンがいしがもっぱら用いられていた。このがいしは電圧が高くなるにつれてサイズを大きくしなければならず,また強度上太い電線に使えない欠点があり,大正時代の初め懸垂がいしの開発によってだんだん影が薄くなり,昭和30年代に,よりスマートな図5のLP(line post)がいしが出現してから,日本ではほとんど姿を見なくなった。図6はドイツで広く使用されている長幹がいしで,日本でも一部で使用されている。これらの送電線用がいしの前後には,送電線と支持物をとめる架線金具およびアークホーンがついている(図7)。アークホーンは,落雷などによるフラッシオーバーをホーン間に起こさせて,がいしがアーク熱によって破壊されないようにするのが目的である。
変電所にはいろいろな電気設備があり,さまざまながいしが使用されているが,大別するとSP(station post)がいしとがい管に分けられる。SPがいしは図8に示すように,棒状の中実がいしで,導体やコンデンサーなど電気設備の絶縁支持や断路器に使用される。がい管は,外側にひだのついた筒状のがいしで,その一例を図9に示す。がい管は変圧器などの機器内部の高い電圧を外に出すブッシングの外殻として,あるいは図10に示すように遮断器の遮断機構を内蔵させたり,操作用の空気を送るパイプの役をさせたりして,外部絶縁や支持のほかにいろいろな機能も加味させて使用される。がい管は小さいものは小指ぐらいのものから大きいものは1体で10mを越えるものまである。変電所の構内には母線の引留め用として長幹がいしも多数用いられている。
変電所から一般家庭や工場へ電気を届ける6kVの高圧配電線には,図11の高圧ピンがいしが広く使用される。最近では図12の配電用の高圧中実がいしが高圧ピンがいしより壊れにくいために,だんだん使用されるようになってきた。電線を引き留める個所には図13の高圧耐張がいしが使用されている。
このほか新幹線などの電気鉄道,電気集塵機,電気炉などいろいろな電気設備にその目的に応じた設計のがいしが使用されている。
執筆者:藤村 哲夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
架空送・配電線の電線、あるいは発・変電所構内の母線などの電線を支持し、絶縁する磁器製の支持物をいう。数万~100万ボルトまでの高電圧送電線では、懸垂碍子を鉄塔支持点から電圧階級に応じて数多く直列につり下げ、その先に電線を固定する。また2本以上の導体を平行に架設する多導体電線などのように引張り荷重の大きい送電線では、この懸垂碍子を2列、あるいはそれ以上、電線の引張り荷重に応じて多列にし、電線を引き留めている。とくに27万ボルト以上の超高圧送電線では、電線の引張り荷重が大きくなるので、標準の250ミリメートル径の懸垂碍子より高張力の280~400ミリメートル径の碍子を最大4列まで、多列にして使用している。送電線鉄塔の電線取り付け部において、電線を引き回し固定する必要がある場合には、長幹碍子が用いられる。また発・変電所の母線やリード線を固定する場合にも、長幹碍子が用いられている。高圧配電線や低圧配電線などでは、ピン碍子をはじめ、小型で電線の支持や引き留めが容易な種々の形状のものが用いられている。
以上のほか、電気鉄道のトロリー線や放送用のアンテナの支持・絶縁にも用途に応じた碍子が用いられている。これらの碍子は、硬質の磁器を主体にし、それに取り付け金具の金具をセメントで接着するなどして構成している。磁器の表面にうわぐすりを施し、滑らかに白色、ないし色ガラス質で覆っている。このようにして雨天や霧などによる水分や、さらには塩分やほこりなどの汚れが付着した場合でも、絶縁を保持できるようにするとともに、雷などにより閃絡(せんらく)した場合でも、そのアーク熱に極力耐えるようにしてある。また温度変化や酸性、アルカリ性などの化学的ストレス、および太陽光線などの環境にも長期的に電気特性と強固な機械力を保持できるようにしてある。
[大浦好文]
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出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…室温での電気伝導度の大きさは,銅やアルミニウムなどの金属では105~106Ω-1・cm-1にも達するのに,ガラス,岩塩などでは10-15~10-17Ω-1・cm-1程度できわめて小さい。一般に電気伝導度の大きい物質を導体conductorといい,反対にきわめて小さいものを絶縁体insulatorと呼んでいる(導体,絶縁体の概念は熱伝導度についても用いられる)。ゲルマニウム,シリコンなどの半導体の電気伝導度は,不純物濃度によって一定しないが,おおよそ導体と半導体の中間の103~10-3Ω-1・cm-1程度の値をとる。…
… 275kVから500kVに昇圧するときの困難な問題の一つは開閉サージであった。これは遮断器を開閉する際に発生する過渡的な異常電圧であり,送電線の絶縁を構成する碍子の個数や導体と鉄塔との離隔距離は開閉サージに耐えるように設計される。ところが開閉サージに対するこれら気中ギャップの絶縁耐力は雷や交流電圧より低く,あらゆる電圧波形のうちで最低であること,離隔距離を大きくしても距離の平方根に比例する程度にしか増加しないことが,1960年ソ連で初めて発見された。…
※「碍子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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