日本大百科全書(ニッポニカ) 「西域物語」の意味・わかりやすい解説
西域物語
せいいきものがたり
江戸後期の蘭学(らんがく)系実存経世学者本多利明(としあき)の諸著の原点を示す著作。上中下3巻。1798年(寛政10)7月序。世人のよく知らない西域を標題としたという。激動する内外情勢を反映し事象記述は具体的で、批判(評判)は個性的であった。巻上で、儒者とイギリスの教師像を比較考察し、国家大衆に無益と神儒仏三道を排斥した。また窮理学(きゅうりがく)(物理学)こそ真の学問であると強調し、天文、地理、渡海の学をもっとも重視して利明学説の基本とした。巻中で、国学の簡素化、国産開発、渡海貿易、飢饉(ききん)救済論を詳述。巻下で、人口増は天理であり、物価操作の有害を述べ、官営貿易の実施、蝦夷(えぞ)地開発、北方王国の建設を説く。西洋を理想とする意識が全編に目だつが、近代実学思想への到達を示す。当時経世書の代表作の一つ。
[末中哲夫]
『本庄栄治郎解題『近世社会経済学説大系 本多利明集』(1935・誠文堂新光社)』▽『塚谷晃弘他校注『日本思想大系 44 本多利明他』(1970・岩波書店)』