奈良県北部の宗教都市。1954年(昭和29)山辺(やまべ)郡丹波市(たんばいち)町と二階堂(にかいどう)、朝和(あさわ)、福住(ふくすみ)の3村、添上(そえかみ)郡櫟本(いちのもと)町、磯城(しき)郡柳本(やなぎもと)町が合併して市制施行、天理教教会本部の所在地として、全国初の宗教団体名を冠した天理市が誕生した。市域は大和(やまと)高原(笠置(かさぎ)山地)の西端、春日(かすが)断層崖(がい)下の丘陵地と、市街地中央部を西流する布留(ふる)川扇状地、奈良盆地東端の平坦(へいたん)地を占める。JR桜井線、近畿日本鉄道天理線、国道24号、25号、169号が通じ、名阪国道と西名阪自動車道を結ぶ天理インターチェンジがあり、交通の要地。中心の丹波市は布留川扇状地末端部に位置し、近世は上(かみ)街道沿いの市場町、宿場町として発達し、柳本は織田氏柳本藩1万石の陣屋が置かれた地。天理教は1838年(天保9)中山みきが開き、明治末期に教勢の大発展に伴って町勢も大いに伸展した。第二次世界大戦後は都市化が著しく、阪神、中京両経済圏を結ぶ西名阪自動車道などの開通は市の産業開発を促進した。工業は中小企業が多く、弱電機器、寝具、清涼飲料、各種ジャッキ、プラスチックなどの生産を行う。農業は、市街地周辺の平坦地では米作、イチゴ、ビニルハウスなどによる野菜栽培が盛ん。朝和、柳本の山麓(さんろく)地帯ではミカン、カキなどの果樹栽培が古くから行われている。東部山間地の福住は、県下最良の大和茶の産地として知られ、近年ゴルフ場など高原レジャー施設の建設が盛ん。天理教の本部のほかに、天理大学、天理参考館、天理図書館などの関連施設がある。市域には西山古墳、櫛山(くしやま)古墳(ともに国の史跡)などの古墳、崇神(すじん)・景行(けいこう)両天皇陵とされる古墳、石上(いそのかみ)神宮、大和神社、長岳寺などがある。1998年(平成10)黒塚古墳(国の史跡)から多数の三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)が発掘され、話題をよんだ。出土品(奈良県黒塚古墳出土品)は2004年(平成16)国の重要文化財に指定された。東部山麓は「山辺(やまのべ)の道」が通じ大和青垣(あおがき)国定公園域。面積86.42平方キロメートル、人口6万3889(2020)。
[菊地一郎]
『『天理市史』全2冊(1958・天理市)』▽『『天理市史 改訂版』全7巻(1976~1979・天理市)』
中国思想の用語。天から付与された善性のこと。〈人欲〉の対語。宋代に新儒教(朱子学)がおこって以来さかんに使われた語。天理という言葉それ自体は,すでに《荘子》養生主篇に〈天理に依(よ)りて大いなる郤(すきま)を批(う)つ〉とみえている。この言葉は庖丁(ほうてい)という名料理人が牛の解体法をきかれたときに発したもので,ここでいう天理は牛の体のなかにある天然のすじめという具体的なものを指している。《荘子》外・雑篇になると,自然の理法といった,より抽象的な意味の天理がしばしばあらわれる。
しかし,宋儒が典拠としたのは《礼記(らいき)》楽記篇の次のような句である。〈人生まれて静かなるは天の性(天賦の本性)なり。物(外界の事物)に感じて動くは性の欲なり。物至り知(ち)知(し)り(外物に対して知覚がはたらき),しかるのちに好悪(こうお)形(あらわ)る。好悪,内に節なく(好悪の感情を節制せず)知(ち)外に誘えば,躬(み)に反(かえ)る能(あた)わず(静かな本性に復帰できず),天理滅ぶ……人,物に化せらるるとは(本性を忘れて物のとりこになるというのは)天理を滅ぼし人欲を窮(きわ)むることなり〉。朱熹(しゆき)(子)によれば,天理は人がみずからのうちに備える天賦の善性だが,それはたえず人欲という利己的な欲望によっておびやかされている。この緊張をはらんだ対立は,一個人の心のなかにとどまらず,人間の歴史や社会もまた天理と人欲の争闘の場である。したがって人は,おのがじし人欲に打ち勝って天理に復帰しなければならない。このような朱熹の見解は,彼が当時目にした人間と社会に対する危機感にもとづくものであったが,朱子学が権威化してゆくにつれ,天理人欲の名において人間性を抑圧するようになったのも事実である。明末・清初の王夫之(船山)が〈人を離れて別に天があるわけではなく,欲を離れて別に理があるわけではない〉(《読四書大全説》巻八)などと述べ,清の戴震(たいしん)も情欲肯定論を提起した(《孟子字義疏証》)のは,それに対する反発であった。
執筆者:三浦 国雄
奈良県北部の市。奈良盆地を南北に貫く古道の一つ,上ッ道(上街道)に沿って市場町の櫟本(いちのもと)と丹波市(たんばいち),織田氏1万石の陣屋町であった柳本が町場を形成してきたが,1954年この3町と二階堂,朝和,福住の3村が合体して市制を施行した。人口6万9178(2010)。天理教の教会本部が置かれた三島から川原城にかけては多数の母屋(信徒宿泊所),大学,図書館,病院といった教会関係施設が建ち並び,年間100万人をこえる信徒が訪れるなど,宗教都市的色彩が濃厚である。また,天理駅(JR桜井線,近鉄天理線)と教会本部を結ぶ街路沿いには商店街がひらけ,天理駅一帯は市の中心地として発達している。いま一つの南北に走る古道,山辺(やまのべ)の道沿いには石上(いそのかみ)神宮,長岳寺,崇神・景行両天皇陵などの社寺や史跡が多く,東海自然歩道が通り,大和青垣国定公園に指定されている。西部を南北に走る国道24号線沿いには機械,織物関係の工場が見られる。西名阪自動車道のインターチェンジもある。盆地部ではトマト,キュウリなどの野菜類の栽培が,また,東部の大和高原では茶の栽培が行われている。
執筆者:橋本 征治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…大和国山辺郡(現,奈良県天理市乙木(おとぎ)町)にあった興福寺大乗院領の荘園。13世紀後半の作成と推定される条里坪付図が残っているが,関係史料が乏しいため,成立過程および条里坪付図作成以降の変遷については不明である。…
…大和国城上郡(現,奈良県天理市)の荘園。〈やぎもとのしょう〉ともいう。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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