観光をわが国の重要な政策の柱として位置づけ、観光立国の実現に関する基本理念と方針について定める法律。2006年(平成18)12月成立し、2007年1月より施行された(平成18年12月20日法律第117号)。
本法は東京オリンピックの前年である1963年(昭和38)に制定された観光基本法を改題し、全面改正する形式をとっており、観光施策の基本理念、観光立国推進基本計画等に関し規定している。観光基本法は、第二次世界大戦後の日本で5番目の基本法として制定されたが、同法を基本法としてその後制定された法律は観光施設財団抵当法の1例にとどまった。現行観光制度の中心となる法令は、国際観光ホテル整備法など昭和20年代(1945~1954年)に制定されたものが多く、その後に制定された総合保養地域整備法(リゾート法)、祝日三連休化法、景観法など観光との関係が深いと考えられる主要法規も、観光基本法との関係で論じられることはなかった。旧観光基本法が制定された1963年当時は、日本人の海外旅行自由化が行われておらず、外貨獲得のための外国人観光客誘致政策が背景にあったこととその裏返しとして海外での邦人保護政策の視点が欠落していたこと、地方公共団体は国の政策に準ずるとする中央集権的規定(旧観光基本法3条)が存在し地域の特色ある発展の理念が欠如していたこと、情報通信技術の活用思想がなかったことなど、観光基本法には基本的な課題があった。観光立国推進基本法はこれらの課題を修正する形で観光基本法を全面改正したものである。
観光立国推進基本法はその前文において「我が国を来訪する外国人観光旅客数等の状況も、国際社会において我が国の占める地位にふさわしいものとはなっていない」と規定するように、観光政策が展開される外国人観光客誘致理念は外貨獲得から国際的地位の強調へと変化している。国際交流の促進も見方をかえれば一種の安全保障政策であり、多くの外国人に観光を通じて日本を認識してもらうことは外交政策上きわめて有効である。
観光立国推進基本法が提案された立法的背景には、2003年11月17日に行われた当時の自由民主党総裁小泉純一郎と保守新党代表二階俊博の間における「日本の風土、伝統、文化、資源を活かし、観光立国・観光立県の実現を図る」とする「自由民主党と保守新党の合流に関しての政策合意」が存在する。観光立国推進基本法が用語として「立国」をあえて使用している理由は、直接的にはこの合意に基づくものであるが、間接的には、忘れられた基本法であった観光基本法の精神をよみがえらせる効果も期待されたためと考えられる。観光立国推進基本法の前文が「地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の実現」にも重きをおいていることからも、今後地方公共団体の観光政策の明確な位置づけと充実強化が必要となっている。なお、観光立国推進基本法に引き続き成立したエコツーリズム推進法は、観光立国推進基本法に基づくものと明文化されてはいないものの、「エコツーリズムが自然環境の保全、地域における創意工夫を生かした観光の振興及び環境の保全に関する意識の啓発等の環境教育の推進において重要な意義を有することにかんがみ」、この法律が提出されたという制定理由に、かろうじて観光立国推進基本法の指針が確保されている。
[寺前秀一]
『寺前秀一著『観光政策・制度入門』(2006・ぎょうせい)』▽『寺前秀一著『観光政策学――政策展開における観光基本法の指針性及び観光関係法制度の規範性に関する研究』(2007・イプシロン出版企画)』▽『寺前秀一編著『観光学全集 第9巻 観光政策論』(2009・原書房)』
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