観念小説(読み)カンネンショウセツ

デジタル大辞泉 「観念小説」の意味・読み・例文・類語

かんねん‐しょうせつ〔クワンネンセウセツ〕【観念小説】

ある観念の具象化を目的として書かれた小説。特に日清にっしん戦争直後に現れた、現実社会矛盾暗黒面に対する作者の観念を問題意識として提出した小説をさす。泉鏡花の「夜行巡査」「外科室」、川上眉山かわかみびざんの「書記官」「うらおもて」など。

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精選版 日本国語大辞典 「観念小説」の意味・読み・例文・類語

かんねん‐しょうせつクヮンネンセウセツ【観念小説】

  1. 〘 名詞 〙 作者の抱いているある観念を作品中に明白に出した小説。特に明治二〇年代末に流行した、個人と社会的倫理との矛盾から生ずる悲劇などを主題とした小説をさす。泉鏡花の「夜行巡査」「外科室」、川上眉山の「書記官」などが有名。
    1. [初出の実例]「所謂観念小説は狭き世界観若くは或る世界観の一片を写せる小説なり」(出典:鷸翮掻(1896)〈森鴎外〉一)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「観念小説」の意味・わかりやすい解説

観念小説
かんねんしょうせつ

作家が時代社会、世相などから触発された観念をその作品中で明白に打ち出している小説。ただし、日本近代文学史上では、おもに日清(にっしん)戦争後の1895年(明治28)ごろ流行した一群の小説をさす。すなわち、1895年の泉鏡花(きょうか)『夜行巡査』『外科室(げかしつ)』、川上眉山(びざん)『書記官』『うらおもて』や、翌96年の鏡花『海城(かいじょう)発電』『化銀杏(ばけいちょう)』などの作品に対する呼称である。これらは主として、当時矛盾を露呈し始めた明治資本主義社会の現実に着目した作家がその問題点を指摘し、読者に強く訴えようと意図したものであった。深刻小説とともに写実主義深化を目ざしたともいえる。ただ、あまりにも観念が先行したために、空疎な印象は否めず、やがて衰退した。

[岡 保生

『岡保生著『観念小説とその周辺』(『尾崎紅葉の生涯と文学』所収・1968・明治書院)』

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改訂新版 世界大百科事典 「観念小説」の意味・わかりやすい解説

観念小説 (かんねんしょうせつ)

文芸用語。日本近代文学史で1895年ころ,日清戦争後の一時期に流行した小説をさし,作者が時代社会,世相などから触発された観念を明白に打ち出している小説をいう。傾向小説の一つと見てよい。具体的には,泉鏡花の《夜行巡査》《外科室》(ともに1895)や川上眉山の《書記官》《うらおもて》(ともに1895)などで,いずれもそのころの明治資本主義社会の内面にひそむ矛盾や問題点を指摘し,読者に訴えようとしている。
深刻小説
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「観念小説」の意味・わかりやすい解説

観念小説
かんねんしょうせつ

日清戦争 (1894~95) 後に現れた社会性の強い小説。人間悲劇の原因を社会にありとする作家の観念が露骨に表明されている。川上眉山の『書記官』 (95) ,泉鏡花の『外科室』 (95) がその代表とされるが,深刻,陰惨に陥り,発展性がなかった。

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