日本大百科全書(ニッポニカ) 「計測器工業」の意味・わかりやすい解説
計測器工業
けいそくきこうぎょう
諸産業素材の質量を計測する機器、もしくは、生産工程の電気・電子・機械・化学・物理的な把握、処理を行うための計測機器を生産する工業。経済産業省の『機械統計』では、計測機械器具製造業は、電気機械器具製造業に分類される電気計測機械器具製造業と業務用機械器具製造業に分類される計測機械器具製造業から構成される。さらに、電気計測器は、指示計器や電力量計等電気計器、電圧・電流・電力測定器、波形測定器、無線通信測定器、半導体・IC測定器、伝送特性測定器、測定用記録計・データ処理装置、工業用計測制御機器(発信機、温度計、圧力計、流量計、受信計、プロセス監視制御システム)といった電気測定器等を含んでいる。
他方、計測機器には、工業用長さ計、ガス・水道メーター、積算式ガソリン量器等の積算体積計、工業用計重機、精密測定器、分析機器、大気汚染や水質汚濁などを分析する環境計測機器等の測定機器、一定の基準にあった各種機械、船舶、車両、航空機等を生産するため、それらの素材、部品の機械・物理・化学的特質の測定試験を行う試験機、建設工事に使用する測量機器が包摂されている。計測機器の生産額は電気計測器の生産額を上回っており、どの機器も多種多様で、大量生産も行われているが、多くの場合、個々の市場規模は小さく、専門化していて、多品種少量生産を主体としている。技術的にも単純な構造のものから、エレクトロニクスを駆使した高度な機器まで広範にわたり、他部門に比較して、熟練労働者や高度な能力を有する技術者をより多く必要としている。
かつて、日本の計測器工業は、重化学工業、化学、鉄鋼業等の装置や自動制御機構の拡充を支え、電気計測器の生産の過半は、工業用計測制御機器が占めていた。だが、重厚長大産業の成熟化とともに、計測機器の市場は縮小し、1990年代以降、長期的な低迷状態にある。21世紀においても、電気計測器では、情報通信機器関連メーカーや半導体メーカーの低迷、関連設備投資や公共投資の減少が、半導体・IC測定器、電気計器、そして、電気測定器の生産の縮小を招いている。試験機や測量機器等測定機器の生産も低下しており、関連企業は、業績が悪化している。
ただ、近年には、測位技術や多様なセンサーが進化し、新たな方途の開拓に至っている。関連して、測位衛星の打上げが増え、たとえば、それらを活用して、道案内を行う歩行者ナビゲーションシステムの開発等が実用化している。そして、GPS(全地球測位システム)の電波が届きにくい屋内でも屋内電波発信機の設置が増えている。物体の外径の判別、対象物の微小な段差、高さ、幅、厚みのほか、対象物までの距離、位相まで計測可能な測位センサーが開発されている。対象物の物理的な特性を検知し、その変化量を距離に演算することで対象物までの距離(変位)を計測する変位センサーの生産も増加している。精度の高い位置情報の活用、次世代位置測位システム等の登場は、緊急時の対応、高度な輸送システムの構築、多様な新規ビジネスの展開を可能とし、関連アプリケーションやソリューションの開発を促進している。
なお、2005年(平成17)の計量器・測定器・分析機器・試験機・測量機械器具・理化学機械器具製造業の事業所数は1822であったが、2014年には1470に減少している。従業者数も、同期間に5万7960人から5万5186人へと減少している。出荷額も同期間に1兆5585億5000万円から1兆5399億4200万円へと減少している。ただ、2010年からは事業所数が減少する一方、従業者数、出荷額は増加している。他方、2005年の電気計測機械器具製造業の事業所数は969であったが、2014年には721に減少している。従業者数も、同期間に3万9250人から3万8393人へと減少している。出荷額は、同期間に9332億0300万円から1兆0465億8400万円へと増えている(いずれも『工業統計表』従業者4人以上の事業所統計)。2010年代には、従業者数や出荷額には増加傾向が認められ、計測器工業においては集約化が進行しているようである。また、一定額を占める電気計測器の2016年の輸出額は、約1兆4145億4000万円、輸入額は約6516億9800万円(『貿易統計』)であった。
[大西勝明 2017年9月19日]