翻訳|flowmeter
単位時間に固定した断面を横切って流れる流体の量を流量といい,流量を測定する機器を流量計という。流量は通常流体の体積で表す。単位時間にある断面を通過する流体の質量を質量流量という。燃焼のような化学反応の制御には質量流量が関係するが,測定はむずかしい。体積流量に密度を乗ずるのではなく,直接,質量流量を測定するものを質量流量計という。
現代は多くの物質やエネルギーが流体の形をとって供給されている。省資源,省エネルギーが重視されるにつれて流量測定の精度や信頼性向上への要求が強くなり,かつ高度化してきた。このほか流量計には次のような性質が要求される。
(1)流量測定範囲が広く,精度が流体の種類(気体,液体,成分など)や流体の条件(温度,圧力,粘度など)に依存しない。(2)測定による流体のエネルギー損失が最小である。(3)積算流量が容易に求められる。(3)の要請は流体の取引に使用される場合に,ある時間における積算値が必要なためである。
一般に流速の測定は固体の速度よりむずかしい。流体は固体と違って速度を測定するための目印をつけることが困難であるし,流れる過程でその形状が変わってしまう。まして,計量のために流体中に周期的構造を設定することはさらにむずかしい。上記のすべての条件を満たす流量計は存在しない。そこで,測定される流体の種類に合わせていろいろな測定方法や,それを具体化した流量計が使われる。測定原理となる物理現象により表のように流量計を大別できる。(1)~(7)は流速を変換する原理構造で,流速に管路断面積を乗じて流量を求める。(8)は直接流量を計量する。以下,表の信号変換原理に従い代表的構造と特性,応用範囲などを示す。
管路を図1のようにしぼり,その前後の差圧p1-p2を測定すると,
に示すように流速の2乗の差に比例する。この関係の背後にはベルヌーイの定理がある。ただし管路の面積をS1,しぼり面積をS2とするならば,体積流量Qは,
より求めることができる。圧力差(差圧)は圧力計または差圧計で電気信号に変換される。
しぼり流量計は現在工業でもっとも多く使われている流量計であって,しぼりの形状には図2に示すオリフィス,ノズル,ベンチュリ管の3種類がある。
流体のエネルギー損失が生じないためには,しぼりの下流で流れが管壁から剝離したり渦が発生したりしてはならない。拡大部で流れが剝離しないように注意深く作られたベンチュリ管の場合はエネルギー損失は最小だが,オリフィスやノズルの場合は渦によるエネルギー損失がある。したがって,(2)式にしぼりの形状で定まる補正係数を乗じてやらねばならない。測定される流体が気体の場合には圧縮性があるので,断熱膨張を仮定して算出した膨張補正係数を乗ずる。しぼり流量計は機構が簡単で広く使われる。しかし,10倍の流量変化に対して差圧は100倍も変化するので広い流量範囲をよい精度で測定するのは容易ではない。
(2)式において,しぼりの面積を可変とし,差圧が一定になるように流量に応じて流路断面積を変えるのが面積流量計である。構造は一定断面積の浮子(フロート)が垂直な管軸に沿って断面積が変化する流管を上下する構造で,図3のように浮子の自重と浮子に作用する差圧に基づく力とが等しくなる位置で平衡する。オリフィスとしぼりと流路の関係が逆になっていることに注意されたい。浮子の位置は電気的あるいは磁気的に検出変換される。
図4に示すように,導電性流体が磁界を横切って流れるとき,流速と磁界と両方に垂直に電界を生ずるので,管路に取り付けた電極により電位差として検出する。円管の中を平均流速vで液体が流れるとき,磁束密度をBとするとファラデーの電磁誘導の法則によって電位差2Bavを生ずる。ただし,aは円管の半径である。
いま,a=0.05m,B=0.01T,v=1m/sとすると10⁻3V,すなわち1mVの電位差が得られる。その値は小さいので直流である電極の分極電位や熱起電力がノイズとなる。通常,商用周波数の数分の1程度の低周波による交番磁界を加え,周期的な出力電圧を得る。
円管が金属パイプであると液体の抵抗よりも管壁の抵抗が小さいので,発生した起電力が管壁によって短絡されてしまう。そこで,工業用の電磁流量計では,内側の管壁を絶縁物のテフロンなどでライニングを施す。
この流量計の特徴は流れを妨げないので流体のエネルギー損失がないこと,出力信号が流量に比例すること,そして,精度がよいことなどである。また,電位差には流体の電気伝導度や成分などに関する量が含まれないので,わずか(たとえば10μS/cm以上)の電導度があれば,その値に影響されない。流体に固体微粒子が浮遊していてもさしつかえない。短所としては,導電性の液体に限られることである。それでも電磁流量計は工業的に広く使われており,円管の直径は2mm程度から2mを超えるものまで製作されている。高速増殖炉など高速中性子を使う原子炉では,NaやNa-Kなどの液体金属が炉心から熱を取り出す冷却材として使われるが,流量測定に電磁流量計が使われる。
流れの中におかれた円柱とか角柱のような形状の物体の下流には,交互に放出される2列の渦列がみられる。この渦列はカルマン渦と呼ばれており,渦列の安定性を研究した物理学者T.vonカルマンの名がつけられている。渦列の安定性に関連して物体から規則的に渦が放出されるのだが,単位時間当り渦の放出される数(これを渦放出周波数と呼ぶ)は流速に比例し,物体の幅に反比例する。流体が液体であってもこの関係は変わらない。この渦放出現象は見方を変えると物体の後流が渦放出周波数で振動する流体振動現象の一種で,この振動が規則的で振動数が流速に比例するのを利用し,それを一定の内径をもつ管路と結合して実現したのが渦流量計である。それゆえ,流速の広い範囲にわたって流速と周波数との間の比例定数が一定となるように形状や寸法を定める。図5は角柱断面の渦発生体を円管に取り付けた渦流量計の構造を示したものである。管路の上部に取り付けられているのは渦放出数を計数するセンサーと,その信号処理を行う電子回路である。渦放出周波数の検出は種々の方式があるが,図に示した流量計では渦放出に伴う物体に作用する力の変化数を測定している。力の測定には圧電効果を利用したセンサー,抵抗ひずみセンサーや容量形変位センサーなどが使われる。超音波や加熱体の冷却を利用して後流の流れの周期的変化を検出するものもある。超音波のビームを渦が横切ることによる局部的流速変化を受信波の位相変調により検出する方式である。
渦流量計の特徴は流量に比例したパルス周波数出力が得られるので積算流量が容易に得られること,振動するのは流体で機械的可動部分がないため信頼性や耐久性が高いこと,さらに流体の性状,たとえば圧力,温度,組成などに影響されないことなどである。この流量計の歴史は新しいが,特徴を発揮して工業計測の分野で応用が拡大しつつある。
動作原理によって,(1)音波の流体中の伝搬時間の変化を利用する方式(伝搬時間方式)と,(2)ドップラーシフトを利用する方式(ドップラー方式)とに大別される。
(1)伝搬時間方式 図6に示すように,流れに乗る方向と流れに逆らう方向とに超音波を伝搬させると一定距離を伝搬する時間が流速により変化する。流れに乗って(矢印Fの方向)伝搬する場合と,逆方向(矢印Aの方向)に伝搬する場合とでは伝搬時間が異なる。両者の差をとると流速が求められる。しかし,音速が温度や流体の組成により変化するので,この方式では正確な測定ができない。そこで種々の信号処理により音速の影響を除去する。
超音波の送波器や受波器には圧電性をもつジルコン酸チタン酸鉛やチタン酸バリウム,あるいはニオブ酸リチウムなどが使われる。これらの磁器は交流電圧を印加すると厚みが変化して超音波を発生する。また,超音波を加えると電圧が発生するので,一つの素子を送波器と受波器に切り換えて使用できる。伝搬時間方式では液体中に音を錯乱させる粒子や気泡が多いと測定が困難になる。
(2)ドップラー方式 送波器から超音波を送り液体中の粒子や気泡で散乱される波を受信する。すなわち,流体中の固体粒子や気泡,気体中の液滴などを目印として,その移動速度を測定するのである。超音波の代りにレーザー光を利用したものもある。
ドップラー方式では流体の中に浮遊した粒子が含まれていることが必要で,流体が清浄であると測定できない。伝搬時間方式では流体に粒子が含まれていないほうが望ましいが,ドップラー方式では逆で含まれていることが必要なのである。したがって,応用面では上水の測定は伝搬時間方式で,下水はドップラー方式で測定される。
超音波を応用した計測手法のもっとも大きな特徴は,測定対象に直接接触しないで,流速が測定できる点である。すなわち,流体の流れている管路の外から超音波を送り,また,反射波や透過波を管路の外でとらえることにより,流れをまったくさまたげないで,管路内の流速が求められる。
非接触という性質は波動の性質を利用していることに起因しており,それがこの手法の特徴にも弱点にも関係している。測定対象が気体となると管壁材料との音響インピーダンスの相違が大きいので,管壁を透過させて管外から測定することは困難である。
流体中におかれた羽根車が流速に比例する角速度で回転する。回転数を積算すれば積算流量が求められる。この原理による流量計は気象用風速計や水道メーター,工業用精密流量計まで幅広く使われる。羽根を軽くし,回転の摩擦を小さくすれば広い範囲の流速が測定でき,精度もよい。図7は工業用タービン流量計の一例であり,軸受の摩擦が最小になるように設計され,回転速度は羽根車に非接触で磁気結合により管壁外から検出計数する。清浄な液体の測定に適した流量計である。
一定容積の空間を〈ます〉のように流体を充満させ,その境界を連続的に動かして一定体積の流体を流出口に送りだす構造の機器を容積流量計という。通常,外壁を構成する固定部と内部で壁に接して回転する部分との間に一定容積の計量空間が形成される。図8は一例である。回転部分の角速度が流量に比例することはいうまでもない。清浄な流体(とくに液体)の測定に適し,精度がよいのでしばしば取引用流量計として使われる。
流体と固体との間の熱交換は流速により大きく影響されるので熱の移動量から流速が求められる。熱線流速計は非常に細い(数μm~数十μm)白金線あるいはタングステン線を電流で加熱し流れによる冷却率の変化を電気抵抗の変化として検出する。
流速を電気信号に変換するには,熱線温度が一定になるように流速に応じて加熱電流を制御する方法がとられる。その電流から流速を求められる。熱線流速計は応答が早いので流速自体より流速の測定に向いており,乱流の測定に適する。
執筆者:山崎 弘郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
管路や溝を通って流れる流体(気体、液体、蒸気)の単位時間当りの体積または質量を測定するための計器。体積を測定する方式を体積流量計、質量を測定する方式を質量流量計とよび、一定時間内に流れた流体の総量を表示する機構を備えた体積流量計は積算体積計ともよぶ。
流量を測定するにはいろいろな原理・方法があり、対象とする流体の種類や測定の目的によって使い分けられている。以下に原理別におもな流量計の種類をあげ特徴を述べる。
(1)絞り流量計 管路の途中にオリフィス、ノズル、ベンチュリー管などの「絞り」を設け、ここを流体が流れるときその前後に生じる圧力差を測定し、ベルヌーイの定理によって流量を求める。気体、液体、蒸気のいずれに対しても使用可能で、工業計測においてもっとも広く用いられる器種である。
(2)面積流量計 絞り流量計と同じ原理によるが、この場合は差圧一定という条件のもとで絞りの開口部の断面積が増減する方式を用いる。一定の力で管路をふさごうとするフロートやピストンなどを流体の流れが押しのけてつくる流路の大きさなどから流量を求める。
(3)堰(せき)流量計 自由液面をもった液体が「堰」を越えて流れ落ちるとき、その流量と堰の上流側の液面の高さとが一定の関係をもつことを利用する。多くは水路中の水流の測定に用いられる。
(4)動圧を利用する流量計 管路の屈曲部などで流体が流れの向きを変える際に動圧によって生じる力(または圧力差)を測定して流量を求めるもので、質量流量が測定できる。
(5)コリオリの力を利用する流量計 振動する半円弧状の管路を流体が通過する際に発生するコリオリの力の大きさから質量流量を測定するもので、圧縮ガスを移送する際の計量などに効果的に利用される。
(6)容積流量計 実測式流量計ともいわれ、一定容積をもった空間に流体を充満し排出するという動作を繰り返して通過流体の量を量り取る方式で、ピストンシリンダー、ロータリーピストン、オーバル歯車などさまざまな運動機構が利用され、流体の流れが回転運動に変換されて読み取られる。液体の場合、圧力変動や粘度の影響による誤差が小さく、もっとも高精度の測定ができる器種である。気体の計量にも適用可能であり、家庭用ガスメーターに利用されている。
(7)翼車流量計 流体の流れを受けて回転する羽根車の回転によって流量を求めるもので、比較的小形で大流量の測定ができ、また、回転総数によって積算値が得られる点が特徴である。軸流型、接線流型などいろいろな構造があり、家庭用の水道のメーターは接線流型の一例である。
(8)流速計を利用する流量計 管路中を流れる流体の速さの平均値または代表値を測定して、これと管路の断面積との積の形で流量を求める方式の流量計で、流速を検出する原理によって分類されている。この方式の代表例として、電磁流量計、超音波流量計、熱式流量計、カルマン渦流量計などがあげられる。圧力損失が小さく、流れを乱さないことが特徴である。
[三井清人]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
単位時間に流れる流体の体積を測定する計器.容積流量計(ガスメーター)は,通過した流体の体積に応じて回転するようになっている歯車型や,ルーツ型の回転子の回転数より流量がわかる.絞り流量計は管のなかに絞りを置いて,そこで生じる圧力損失と流量との関係をベルヌーイの定理から得られる式に係数を乗じて表す.この係数は流量係数とよばれ,絞りの形によって異なるが,それぞれレイノルズ数の関数として表される.絞りとしてはオリフィス,ベンチュリ管などがある.面積流量計(ロータメーター)は上方になるほど広がっている管のなかに浮子を入れたもので,管のなかに流体を下方より上方に向かって流すと,浮子は流量に応じて流体より受ける力と自分の重力とが釣り合う高さで止まる.この高さによって流量を知ることができる.また,一定量ずつの熱量を流体に与えて,その温度上昇より流量を知る熱式流量計のほか,電磁流量計,超音波流量計などがある.[別用語参照]流速計,オリフィス計
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[積算体積計]
管路の所定の断面を通過して流れる流体の体積を,流量または流速を測定し,それを積算して表示する体積計。流量計と呼ばれる。水道メーター,小売用ガソリンの計量器,都市ガス用ガスメーターなどが身近な例である。…
※「流量計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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