日本大百科全書(ニッポニカ)「計算図表」の解説
計算図表
けいさんずひょう
普通、三つ以上の変数の間に成り立つ関係式を図表で表し、簡単に関係が読み取れるようにしたもので、共点図表と共線図表がある。
共点図表は、変数の関係を満たす値の組が線の交点として求められるようにしたもので、たとえばuv=wの場合、wに特定の数値を与えれば、uとvの関係は双曲線になるので、uv=wの共点図表は
(1)のような双曲線群になる。もしuv=wの両辺の対数をとればlogu+logv=logwとなるので、対数方眼紙を利用すれば、uv=wの共点図表は (2)のような直線群に変換できる。一般に共点図表は作成に手間がかかり、使用する場合も目分量による補間がむずかしく、次に述べる共線図表に比べると劣る。共線図表は、変数の値の関係を1本の直線で読み取れるようにしたもので、次にいくつかの基本型を例として解説してみよう。
基本型〔1〕 f1(u)+f2(v)=f3(w) 加法の共線図表で、三平行線型図表といわれる。 (1)のようにm : nの間隔に平行に引かれた3本の直線上に
x=mf1(u), y=nf2(v),
z={mn/(m+n)}f3(w)
の関数目盛りを目盛ると、目盛りu、v、wの間にf1(u)+f2(v)=f3(w)の関係式が成り立つ。x=mf(u)の関数目盛りまたは関数尺というのは、uの値u1、u2、……に応じて原点からx1=f(u1), x2=f(u2),……の距離に相当する点にu1、u2、……と記入してつくられたものである。ピタゴラスの定理によって、直角三角形の辺の長さを求める図表をつくるには、a2+b2=c2からm=n=1とすればx=a2, y=b2, z=(1/2)c2の関数目盛りを目盛ればよい( (2))。
基本型〔2〕 f1(u)・f2(v)=f3(w) 乗法の共線図表で、Z字型図表といわれる。
x=mk/{m+nf1(u)},
y=mf2(v), z=nf3(w)
の関数目盛りを目盛れば、u、v、wの間にf1(u)・f2(v)=f3(w)の関係式が成り立つ。 (2)はuv=wの共線図表である。基本型〔2〕は、両辺の対数をとればlogf1(u)+logf2(v)=logf3(w)となるから、対数尺を利用することによって基本型〔1〕の共線図表にすることもできる。
基本型〔3〕 1/{f1(u)}+1/{f2(v)}+1/{f3(w)} 三交線型図表といわれる。
の共線図表は、∠xOy=120゜Ozをその二等分線とすれば、すべての軸の目盛りは同じになり、 (2)のようになる。
[片野善一郎]
計算図表の歴史
共線図表は、1884年、フランスのエコール・ポリテクニクの教授で工学者・数学者であったモーリス・ドカーニュMaurice d'Ocagne(1862―1938)によって創案されたもので、彼はこのような図表をノモグラムnomogram、それを対象とする学問をノモグラフィnomographyとよんだ。計算図表学は公式の図示法を研究する応用数学の一分科として始められたものであるが、一度つくっておけば永久的に反復使用できる便利さがあるので、微積分の計算や定型の代数方程式、微分方程式の解の算出などにも利用され、理工学はもちろん、医学や経済学など広範囲の分野で活用されるようになった。
[片野善一郎]
『小倉金之助著『計算図表』(1940・岩波全書)』