詩的リアリズム(読み)してきりありずむ(その他表記)réalism poétique

日本大百科全書(ニッポニカ) 「詩的リアリズム」の意味・わかりやすい解説

詩的リアリズム
してきりありずむ
réalism poétique

1930年代後半のフランス映画のスタイルをさす用語。第二次世界大戦前夜の不安定な世相と時代の鬱屈(うっくつ)した気分を反映した、繊細で叙情的な描写、厭世(えんせい)的だがロマンティックな物語、スタジオでのセット撮影などを特徴とする。国際的に高く評価され、興行的成功を収めた。ジャック・フェデーの『外人部隊』(1934)、ジュリアン・デュビビエの『望郷』(1937)、マルセル・カルネの『霧の波止場』(1938)などが代表的な作品で、『大いなる幻影』(1937)や、『ゲームの規則』(1939)といったジャン・ルノワールの作品を含めることもある。時代は下るが、カルネの『天井桟敷(さじき)の人々』(1945)が詩的リアリズムの集大成であり最後の作品とされている。詩的リアリズムを牽引(けんいん)した脚本家としては、フェデーやデュビビエと組んだシャルル・スパークCharles Spaak(1903―1975)と、カルネとのコンビで知られる詩人ジャック・プレベールが有名で、俳優ではジャン・ギャバンが代表的である。

[伊津野知多]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「詩的リアリズム」の意味・わかりやすい解説

詩的リアリズム
してきリアリズム
poetischer Realismus

1840年代のドイツに興った文学的傾向。のちの自然主義と違って,ある理念をもって多様な現実をとらえ「高められた現実」の定着を目指したもの。名称は O.ルートウィヒ論文に由来する。ドロステ=ヒュルスホフ,G.ケラー,C.F.マイアー,シュティフター,シュトルムらがこの派に属し,当時のドイツ文壇で中心的位置を占めた。

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世界大百科事典(旧版)内の詩的リアリズムの言及

【天井桟敷の人々】より

…撮影は非占領区の南フランスのニースの撮影所に,19世紀半ばのパリの街並みを復元したオープンセットを建てて行われた(セット・デザインはアンドレ・バルサックとユダヤ人であったために名を隠したアレクサンドル・トローネル)。《おかしなドラマ》(1937),《霧の波止場》(1938),《日は昇る》(1939),《悪魔が夜来る》(1942)に次ぐジャック・プレベール脚本,マルセル・カルネ監督のコンビの代表作かつ最高傑作であり(このコンビの作品によって代表される当時のフランス映画が〈詩的リアリズム〉の名で呼ばれた),おそらく世界中でもっともよく知られたフランス映画の名作である。 第1部〈犯罪大通り〉,第2部〈白い男〉という2部構成で,1840年代のパリのブールバール・デュ・タンプル(〈犯罪大通り〉の名で呼ばれた)を主要な舞台に,パントマイムを舞台芸術にまで高めた偉大な創始者として知られるJ.G.ドビュロー,ロマン派演劇の名優F.ルメートル,悪名高き犯罪詩人ピエール・フランソア・ラスネールといった実在の人物が,娼婦ガランスやドビュローが活躍したフュナンビュール座の座長の娘ナタリーといった虚構の人物と入りまじって,まさに虚々実々の恋愛絵巻をくりひろげる波乱万丈の物語である。…

【フランス映画】より

…同じころパリでは〈芝居の神さま〉といわれたブールバール劇の作者であり演出家であり俳優であるサッシャ・ギトリーも自作の戯曲を次々に映画化し,《とらんぷ譚》(1936),《王冠の真珠》(1937)等々で徹底的な話術,〈語り〉の芸で映画に新形式をもちこみ(のちにオーソン・ウェルズに強い影響を与えた),パニョルとともに,フランス映画史に特異な地位を占めるに至った。
[戦前の4巨匠と詩的リアリズム]
 〈アバンギャルド〉のドキュメンタリー映画《ニースについて》(1930)から出発し,戦後まで公開禁止になった〈スキャンダラスな〉短編劇映画《新学期・操行ゼロ》(1932),次いで唯一の長編《アタラント号》(1934)を残して,〈天才詩人〉と呼ばれて期待されたジャン・ビゴが29歳で死んだ1934年から,フランス映画はようやく〈暗黒時代〉から抜け出て,新しい時代を迎えることになる。フェデル監督《外人部隊》(1934),《ミモザ館》《女だけの都》(ともに1935)から始まる30年代のフランス映画の〈自然主義〉的傾向は,フェデルの弟子のマルセル・カルネ(1909‐96。…

【ルノアール】より

…俳優のピエール・ルノアールPierre R.(1885‐1952)は兄,プロデューサーのクロード・ルノアールClaude R.(1901‐ )は弟,そして撮影監督(カメラマン)のクロード・ルノアール(1914‐ )は甥(兄ピエールの長男)という映画一家。父の絵のモデルをやっていたカトリーヌ・エスランと結婚,彼女を女優にするために映画をつくりはじめ,〈映画的トリック〉に興じた一種のアバンギャルド映画(《水の娘》1924)からエーリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の《愚なる妻》(1921)の〈自然主義リアリズム〉に強烈に影響された《女優ナナ》(1926)に至るサイレント作品で注目され,トーキー時代に入るや,《牝犬》(1931)から《どん底》(1936)をへて《ゲームの規則》(1939)に至る数々の映画史上に残る名作をつくり,映画史家ジョルジュ・サドゥールによって〈詩的リアリズムréalisme poétique〉と名づけられた戦前のフランス映画を代表する巨匠の一人となった。また,マルセル・カルネ,ジュリアン・デュビビエ,ジャック・フェデル(もしくはルネ・クレール)とともにフランス映画の〈戦前の四巨匠〉とよばれることもある。…

※「詩的リアリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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