議会で、長時間の演説、各種動議の提出、定足数計算の要求などの合法的手段を利用して計画的に議事の進行や投票を妨害すること。通常、少数派によって行われる。
アメリカではフィリバスターfilibusterとよばれるが、17世紀に西インド諸島のスペイン領を荒らした海賊freebooterを意味するオランダ語のvry buiterに由来する。のちに、外国に対して私戦を行う者をさすようになり、19世紀以降、議会における議事妨害filibuster in legislationを意味する語として用いられるようになった。自由な討論を伝統とするアメリカの上院では、長時間の演説によるフィリバスターがしばしば行われる。多数派の提出する議案に対して、純粋な討論を目的とするよりは、議案の修正・撤回または会期末の時間切れを目的とする少数派の戦術として利用される。個人またはグループで行われ、1908年ラフォレットRobert M. Lafolletteによる18時間、1935年ロングHuey P. Longによる15時間、1953年モースWayne Morseによる22時間などが記録されており、また、1946年には市民権法案に反対する南部出身議員の組織的フィリバスターが23日間に及んだ。1917年に、過度のフィリバスター防止のため、討論終結の規則the Closure Ruleが定められ、動議により3分の2の多数によって討論を終結し、採決を行うことが可能となったが、実効性に乏しいといわれる。また、イギリス議会においても1770年代にバークEdmund Burkeによって行われた長時間の演説が有名である。
わが国では1929年(昭和4)旧帝国議会において、選挙区制の改正案に反対する議事妨害が行われた。現憲法下の国会においても、1954年(昭和29)第19国会における社会党の衆議院議長席占拠事件、55年参議院、59年衆議院への警察官導入のときに、不信任案や懲罰動議、修正案の提出、記名投票における牛歩戦術などの議事妨害が行われた。議院規則は、質疑打切りや討論終局の動議(衆議院規則140条・141条、参議院規則111条)の提出や、記名投票の時間制限(衆議院規則155条の2)により議事妨害を規制しているが、暴力的行為は別としても、合法的方法による議事妨害は、少数意見尊重の見地からは是認されるべきである。
[山野一美]
議会の少数派が,合法的手段を利用または乱用することで,議事の進行を計画的に妨害すること。アメリカではとくにフィリバスターfilibusterと呼ばれ,上院で用いられることが多い。長時間の質問演説,各種の動議,とくに先決問題となる不信任あるいは懲罰動議の提出,記名投票の要求や定足数確認要求の頻発,表決に要する時間の遅延工作などが,そのおもな方法である。イギリスでは,1881年,アイルランドに不利な法案に反対する議員が,41時間連続の演説を行って議事を妨害したため,翌年,ギロチンの別名をもつ討論終結制が採用された。アメリカの上院では,議員の発言時間に制限を課さないことを原則にしているため,しばしば長時間演説がフィリバスターの手段として用いられる。これまでの最長記録は,1957年,南部出身のサーモンドS.Thurmond議員が公民権法案に反対して行った24時間18分である。日本では,1929年の選挙区改正法案をめぐる議事妨害が有名である。日本で用いられるおもな方法は,記名投票に際しての〈堂々めぐり〉によって時間を空費させることで,ときには〈牛歩戦術〉が用いられることもある。こうした手段が功を奏さない場合には,しばしば座込みや議長席の占拠などの非常手段がとられる。こうした非常手段のなかには,合法的な議事妨害の枠を超えているものもあり,対抗措置として警察官の導入を招いたことも少なくない。議事妨害に対抗する手段としては,発言時間の制限や討論終結の動議などがある。日本でも,両院の議長は議員の発言時間を制限できるし,多数派はいつでも質疑打切りや討論終結の動議を提出できるとされている。しかし,議会のおもな機能の一つは多数派と少数派の間で妥協しうる余地を見いだすことであって,そのためには,少数派に最大限の発言の機会を与える必要がある。その意味で,議事妨害を避ける最も有効な方法は,多数派が少数派に対する寛容を貫くことだといわなければならない。
執筆者:阿部 斉
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(星浩 朝日新聞記者 / 2007年)
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