議員定数(読み)ぎいんていすう

改訂新版 世界大百科事典 「議員定数」の意味・わかりやすい解説

議員定数 (ぎいんていすう)

選挙は通常全国をいくつかの選挙区に分割して行われるが,各選挙区に割り当てられた議席数をその選挙区の議員定数,その合計を各院の議員定数という。日本の衆議院および参議院の比例代表選挙のように全国を一つの選挙区とする制度は珍しい。各選挙区への議員定数の配分は,法の下の平等の原則に従い個々の有権者の選挙権の価値が平等となるよう,それぞれの選挙区の有権者数,あるいは,それを近似的に反映すると考えられる人口数に比例的になされるべきだというのが,民主主義要請であると考えられている。とくに,二院制を採る国においては,下院についてこの比例原則を基礎とするのがふつうである。これに対して,上院については,それに期待されている役割に応じて有権者数とは異なる基準を採用することもある。たとえば,アメリカの上院は連邦制的構造の反映として各州に人口数に関係なく2名の定数が配分されている。また,連邦制でなくても,上院に地方の特殊性を代表させたり(地域代表),職業的利益を代表させたり(職能代表)しようという場合には,ある程度人口数比例からのかい離を許す考えも認められる。

 日本の場合は,両院ともに原則的には人口比例であるべきだが,とくに参議院についてはある程度都道府県を単位とする地域代表的性格もあるから,衆議院の場合ほど厳格に比例原則を貫く必要はないというのが支配的な学説である。いずれにせよ,選挙区割りに際しては,ゲリマンダー(ある党派に有利となるような恣意的区割り)を避けるため,可能な限り既存の行政区画(県市町村)を尊重して選挙区を定めるのが慣例であり,このために人口比例原則を多かれ少なかれ緩和せざるをえなくなるのがふつうである。問題は衆議院,参議院それぞれにつきどの程度まで緩和して考えることが許されるかである。1947年に現行選挙制度が制定されたときには,両院ともに人口数に比例して定数配分がなされたが,その後日本経済の発展に伴い都市への人口集中と農村の過疎化が急激に進行し,その結果都市的性格の強い選挙区と農村的性格の強い選挙区の間で定数のアンバランスが拡大した。衆議院についてはその定数配分を定めている公職選挙法の別表1が,国勢調査による人口数に基づき5年ごとに定数の見直しをするよう規定していることもあって,64年と75年,86年の3度にわたって総定数増による改正がなされたが,いずれも不徹底な改正に終わった。94年の公職選挙法改正による小選挙区比例代表併立制の導入にともない,現在の衆議院議員の定数は500,うち300が小選挙区で,残り200が比例代表で選出される。

 定数を変えることは議員の利害にからむため,議員がみずから改正することはもともときわめて困難である。このためイギリスでは委員会を設けてそこで作成された改正案を議会が受け入れるという慣行が成立している。アメリカでは裁判所が〈一人一票制〉の原則の下に最大限の比例的平等を要求する厳格な審査を行っており,たとえば1.06倍程度の格差さえ違憲とする判決が出されたことさえある。日本でも,定数不均衡は憲法14条の平等原則に反すると主張する訴訟がこれまでに何度も提起されてきた。しかし,最高裁判所は,当初はこの問題に対してきわめて消極的態度を示し,1964年には参議院の不均衡につき格差が4倍程度ではまだ違憲とはいえないと判示した。しかし,76年になると,今度は衆議院の1975年改正前の定数配分についてであったが,格差約5倍の不均衡を違憲とする判決を下した(もっとも〈事情判決〉の法理を応用して選挙そのものは有効とした)。ところが,83年にはふたたび参議院について,参議院の場合は地域代表的性格を考慮し,衆議院の場合と同様に考える必要はないという理由から格差5倍以上という現状もいまだ違憲という必要はないと判示している。
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百科事典マイペディア 「議員定数」の意味・わかりやすい解説

議員定数【ぎいんていすう】

人口または有権者数を基礎に割り出して,各選挙区に配分された国会議員の定数のこと。これは公職選挙法に定める議員定数配分規定に基づき国会が定めるもので,原則は人口に比例して配分することになっている。しかし,各地域の特殊性などもある程度考慮されるため,必ずしも正確に人口に比例しているわけではない。その結果,各選挙区により議員1人あたりの人口(または有権者数)に格差が生じることがある。また,都市化の進展や農村部の過疎化の進行により,格差は急速に拡大した。このことが〈1票の重み〉として憲法の保障する法の下の平等という観点からしばしば問題とされ,各地の市民団体により衆議院定数訴訟が起こされた。1976年4月に最高裁は初めて最大格差が1対5となっていた1972年当時の議員定数規定を違憲とした。しかし,1983年11月の最高裁判決では2.92対1の格差を合憲と判断し,3対1までの格差は憲法上許容されるものとの司法判断が下された。学説上は格差が2対1以上になることは投票価値の平等に反するものと考えられている。
→関連項目一票の格差

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知恵蔵 「議員定数」の解説

議員定数

議員の定数は選挙の種類によって異なる。2000年の選挙制度の改正によって衆議院議員の定数は480人となった。そのうち300人が小選挙区で、180人が全国11ブロックの比例代表区で選ばれる。参議院議員の定数は242人。そのうち比例代表区選出が96人、選挙区選出が146人で、3年ごとに半数が改選される。

(蒲島郁夫 東京大学教授 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の議員定数の言及

【国会議員】より

…院内の秩序を乱す議員は,その議院によって,その程度により,公開議場における戒告・陳謝,一定期間の登院停止,除名等の懲罰に付せられることがある(日本国憲法58条2項,国会法122条)。
[議員定数]
 衆議院議員の定数は,戦後466人で出発し,沖縄復帰と定数増加(1964年と75年,86年)をみたが,1994年に公職選挙法の改正で,500人となっている。うち300人が小選挙区選出であり,残りの200人は,全国を11の区に分割したブロックごとに比例代表で選出される(1997現在。…

【衆議院】より

… 1996年10月20日,小選挙区比例代表並立制のもとではじめての総選挙が実施された。選挙後,重複立候補制度の見直しや議員定数の削減,選挙制度そのものの再検討の必要性が各方面から出されており,議論のゆくえが注目される。 旧憲法下の衆議院は,法的に貴族院と対等の地位にあったが,現行憲法下のそれは,法律・予算の議決(59条,60条),条約の承認(61条),内閣総理大臣の指名(67条)について,憲法上も,衆議院の優越が認められている。…

※「議員定数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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