株式会社が有する自己の株式(会社法113条4項)。会社が自社の発行した株式を取得すると、その結果、自己株式となる。自己株式の取得と保有は、会社債権者保護(出資の払戻しと同視)、株主平等(取得方法・価格に不平等をきたすおそれ)、会社支配の公正(現経営陣の地位強化策に利用されるおそれ)、株式取引の公正(相場操縦、インサイダー取引として利用されるおそれ)という政策的観点から、従来は、原則的に禁止されていたが、その後、例外的許容を増やす傾向を強め、2001年(平成13)の商法改正では、一定の規制のもとで目的にかかわらず定時株主総会の決議による取得が可能となった。2003年10月の商法改正では、定款授権に基づく取締役会決議による取得制度が設けられた。規制が大きく緩和された理由として、(1)自己株式を用いた機動的な組織再編(合併、会社分割など)の促進、(2)自己株式を取得することにより市場に流通する株式数を調整し、また、持合株式の解消売りの受け皿として、株式市場の安定を図ることができる、(3)大株主などが株式を処分する場合に、会社が取得することができれば、敵対的買収者に対する防衛手段となることなどがあげられる。
[戸田修三・福原紀彦]
会社法において自己株式を取得できる場合としてあげられているのは、以下のとおりである(会社法155条)。(1)取得条項付株式の取得、(2)譲渡制限株式の取得、(3)株主総会決議等に基づく取得、(4)取得請求権付株式の取得、(5)全部取得条項付株式の取得、(6)株式相続人等への売渡請求に基づく取得、(7)単元未満株式の買取り、(8)所在不明株主の株式の買取り、(9)端数処理手続での買取り、(10)他の会社の全部の事業を譲り受ける場合の同会社が有する株式の取得、(11)合併後消滅会社からの株式の承継取得、(12)吸収分割会社からの株式の承継取得、(13)その他法務省令で定める場合。すなわち、会社法155条では、会社が「およそ自社の株式を取得する場合すべて」を列挙している。ただ、一般的に「自己株式取得」として議論されているのは(3)の「株主総会決議等に基づく取得」であり、条文上ではこれを「株主との合意に基づく取得」とよんでいる(同法156条~165条)。なお、下記で説明する取得手続規制に服するのは(3)だけである(同法156条2項)が、自己株式取得の財源規制には(1)~(13)すべての場合が服する。
[戸田修三・福原紀彦]
〔1〕すべての株主に申込みの機会を与える取得 株主総会普通決議において、(1)取得株式数、(2)取得対価、(3)取得期間を決定して(会社法156条1項)、取得の授権を行う。なお、剰余金の分配を取締役会の権限とする旨の定款の定めのある(同法459条1項1号・2項)会社では、この決定決議は取締役会で行うことができる。そして、前記総会決議で授権された範囲内で、会社はそのつど、自己株式取得を決定する(同法157条1項)。なお、この取得決定は、取締役会設置会社では取締役会決議で行う(同法157条2項)。会社は株主からの申込みに応じて自己株式を取得するが、申込み数が多いときには各株主の申込み数に応じて案分で取得する(同法159条)。
〔2〕特定の株主からの有償取得 特定の株主から自己株式を有償取得する場合の授権決議は株主総会の特別決議で行う(同法156条1項、160条1項、309条2項2号)。特定の株主だけから自己株式を取得すると株主平等に反するおそれがあるために、特別決議を要求して手続を厳格化している。そして、そのつどの自己株式取得は、〔1〕と同様である(同法157条)。ただ、その特定の株主以外の株主にも、自らも売主となるように会社に請求できる権利を認めている(売主追加請求権。同法160条2項・3項、161条)。
〔3〕市場取引・公開買付による取得 市場取引・公開買付によって自己株式を取得する場合には、会社法156条の自己株式取得の決定決議を行うだけで取得することができ、〔1〕〔2〕で要求された実際の取得決議は不要である(同法165条1項)。市場取引・公開買付では株主間の不平等がおこりにくいために、取得要件を緩和した。また、取締役会設置会社は、定款の定めにより、市場取引・公開買付による自己株式取得を取締役会決議で決定することができる(同法165条2項・3項)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社法においては、剰余金配当とあわせて、剰余金分配規制として、統一的に規制にかけられている(会社法461条1項2号・3号)。よって自己株式を取得する財源は、分配可能額を超えてはならない。
[戸田修三・福原紀彦]
取得した自己株式の保有には理由を求められず、また、消却義務も負わない。2001年改正による自己株式取得規制緩和が「金庫株解禁」といわれているゆえんである。
[戸田修三・福原紀彦]
『有田賢臣・金子登志雄・高橋昭彦著『よくわかる自己株式の実務処理Q&A――法務・会計・税務の急所と対策』(2007・中央経済社)』
株式会社が自己の発行した株式を取得または質受けした場合に,その株式を自己株式という。会社が自己株式を有することは会社が同時にその会社の社員となることになり,理論的に認めがたいこととなるが,株式が有価証券たる株券に化体せられ,それが一つの経済的価値のある財産として機能する面から見れば,会社が有価証券として自己株式を承継取得することも理論上必ずしも不可能なことではない。設立や新株発行のときに株式を引き受けること(原始取得)はできないが,いったん発行した株式については,株券を取得することにより株式を取得するということとして,理論上も認められるといえよう。しかし,自己株式の取得は,種々の弊害が生じうる。すなわち,会社が自己株式を有する場合,経済不況,経営不振の際には会社財政が悪化し,その結果株価の低落となり,会社財産のうちの自己株式の価値が低落することから,財政悪化の会社ではいっそう会社財産の価値が低下する。また,会社の自己株式取得は株金の払戻しと実質的には変わらないことになる。また,自己株式の取得は,株式取得の相手方(譲渡人)および価額との関係で,株主平等原則が害される。また,自己株式の取得-売却によって,取締役などによる株価操作・投機行為が行われ,一般投資者に損失を与えるおそれもある。そこで法は,自己株式の取得を規制し,会社は一定の場合を除いて,自己株式を取得し,または発行済株式総数の20分の1を超えて質権の目的として受けることはできないとしている(商法210条,210条ノ2,210条ノ3,210条ノ4,211条,211条ノ2,212条ノ2,204条ノ3ノ2,489条,498条,株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律,会社更生法262条)。自己株式取得の弊害は質受けの場合でも生じ得,また自己株式の取得が質権の形で実質的に潜脱されうるので,自己株式の質受けも制限されているわけである。また,過半数の株式または過半の出資口数(有限会社)を有する親会社の株式を子会社が取得することも,原則として禁止される。
執筆者:菱田 政宏
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