改訂新版 世界大百科事典 「財神」の意味・わかりやすい解説
財神 (ざいしん)
cái shén
中国の財福をつかさどる神をいう。財神の正統的な神格と目される〈増福財神〉〈玄壇神〉〈五顕財神〉をはじめとして〈関帝〉〈比干〉など多種多様の神が奉祀される。〈玄壇神〉は,古くからよく知られた神で,その名を〈趙玄朗〉〈趙公明〉という。黒面の異形を特徴とすることから,商才にたけたペルシア系のイスラム教徒をまつるとする説,〈玄〉を五行説により解釈して北方玄武大帝とする説,あるいはインド・チベット地方のマハーカーラ神が中国化したとする説などがある。〈五顕財神〉は,〈玄壇神〉を中心に〈招宝〉〈招財〉〈利市〉〈納珍〉の5神からなり,明の小説《封神演義》には,殷の紂王(ちゆうおう)の軍営に加わった趙公明が死後に〈金竜如意正一竜虎玄壇真君〉に封じられ,〈招宝〉以下の4神をひきいることになったという。民間では,不義の財を盗み貧しきものにあたえた5人の義賊をまつるとも伝承される。行商するものが旅の安全と各地からの招財を祈った〈五路神〉に源流するらしく,また盗賊神とも関係するとみられる。
〈武財神〉と呼ばれる〈関帝〉,〈文財神〉と称される〈比干〉は,それぞれ蜀漢の勇将関羽と殷の紂王の忠臣比干を神格化したもので,関帝はもともと武神であった。財神は特に商家で尊崇され,なかでも関帝は,霊験あらたかな神として祭祀される(関帝廟)。北中国の商家では,諸神とは別に正月2日に財神をむかえ,人々は先を競って財神廟に参詣し,発財招福を祈願すると,〈元宝〉と呼ばれる馬蹄銀型の紙銭を借りて帰り,翌年これを倍にして返すという風習もあった。妓院では,春秋時代の斉の桓公もしくは管仲を娼業の祖としてまつり,また天津を中心とする北方では,〈胡仙〉と呼ばれる狐神や〈五大家〉と称される狐,鼬(いたち),針鼠,蛇,鼠の動物神が,巫女や商家のあいだで招財の神として信仰されていた。
執筆者:堀 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報