資金循環表(読み)しきんじゅんかんひょう

改訂新版 世界大百科事典 「資金循環表」の意味・わかりやすい解説

資金循環表 (しきんじゅんかんひょう)

資金循環勘定flow-of-funds accountsまたはマネーフロー表ともいう。これは,(1)国民経済企業家計政府金融機関などの諸部門に分割,対外取引の相手方を海外部門として設け,(2)金融的な資金の流れを現金通貨預金通貨・定期性預金・信託・保険・貸出し・国債社債・株式・貿易信用などの金融資産・負債項目別に分類して,(3)経済全体における資金の流れを各部門の資金の受払いとして整合的に記録する統計である。これはアメリカのコープランドMorris A.Copeland(1895-1989)の《マネー・フローの研究》(1952)に始まり,アメリカの連邦準備制度理事会がこれを継承して作成し,1955年に公表した。ヨーロッパの中央銀行もこれに刺激されて作成を進め,とくにイギリスのイングランド銀行西ドイツの連邦銀行の資金循環表とその分析が注目される。日本では日本銀行が58年に1954年以降の年間表を発表,ついで四半期表も作成,現在は計数を《経済統計月報》に,分析結果を《調査月報》に定期的に発表している。それは金融取引表と金融資産負債残高表から成り,それぞれフロー表とストック表の関係にある。経済企画庁も国民経済計算一環として資金調達勘定と国民貸借対照表を作成している。

 通貨の流れは,(1)通貨が商品・サービスと交換される場合(通貨の産業的流通)と,(2)通貨が有価証券その他の債権債務と交換される場合(通貨の金融的流通)に大別される。資金循環表では(1)の記録には国民所得統計が利用されて,(2)の金融取引の記録に重点がおかれる。(1)では部門別投資・貯蓄が重要な計数となり,これが(2)における各部門の金融取引の貸借じり,すなわち資金過不足に接続するかたちとなる。

 資金循環分析とは,資金循環表によって経済全体における通貨・資金の流れを観察して,経済と金融の関係,とくに金融の仕組みと動きを明らかにするものである。マネー・サプライ統計が銀行など主要金融機関の信用供与と広義の通貨供給量を記録するのに対して,資金循環表は銀行信用・通貨のみならず証券市場や海外との資金流出入の動きを対象としている点で,より広範囲の統計体系である。

 日本の資金循環は1970年代後半の経済成長の減速および国債の大量発行のもとで著しい変化をみせた。かつての高度成長期には投資活動の担い手である企業部門が経済全体の資金の大部分を調達し,しかもそれが銀行を中心とする間接金融(直接金融・間接金融)によってまかなわれた。ところが,低成長期には企業部門の資金需要は低調となり,代わって政府部門が借手の主役となった。これにともなって金融機関に対して証券市場とくに国債を中心とする公社債市場の比重が高まり,金融機関の資金運用面では貸出金と並んで債券投資が増大した。その間に企業金融は緩和し,個人の金融資産の蓄積が増大した。こうして経済の流動性が上昇するとともに,企業・個人の金利選好が高まり,高収益性の金融資産(信託・郵便貯金・債券)が好調な伸びを示した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「資金循環表」の意味・わかりやすい解説

資金循環表
しきんじゅんかんひょう
flow-of-funds accounts

国民経済を企業,個人,政府,金融機関などに分け,これら諸部門相互間の資金の流れを取引形態別に整合的に記録した統合表。国民所得勘定が,国民経済において新しく造出された生産物ないし付加価値の循環を記録するのに対して,資金循環表は,前者では捨象されている金融的な資金の流れを明らかにする点に特色がある。日本では 1958年以来日本銀行が『金融取引表』『金融資産負債残高表』を発表している。

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世界大百科事典(旧版)内の資金循環表の言及

【経済循環】より

…とりわけ経済表として1枚の図表に経済活動の全貌を集約して表現しようとした彼の着想は,マルクスの再生産表式やレオンチエフの産業連関表として結実し,経済学上有力な分析用具を提供する結果となった。 現代の国民経済の循環構造を具体的にとらえる手法としては,上記の産業連関表のほかに,国民経済計算資金循環表(マネー・フロー表)があげられる。産業連関表が生産における循環に注目するのに対し,国民経済計算では,国民所得の発生から,分配を経て支出に至る循環の様相を対象とする。…

※「資金循環表」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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