グレゴリオ聖歌(読み)ぐれごりおせいか(英語表記)cantus gregoria ラテン語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グレゴリオ聖歌」の意味・わかりやすい解説

グレゴリオ聖歌
ぐれごりおせいか
cantus gregoria ラテン語
Gregorian chant 英語
Gregorianischer Choral ドイツ語

ローマ・カトリック教会典礼のための単旋律による聖歌で、中世以来今日に至るまで歌われ続けてきた音楽。その名は、この聖歌を集大成したといわれる教皇グレゴリウス1世(在位590~604)にちなんでつけられているが、その成立に関してははっきりしない点が多い。古代末期から中世初期にかけて、ローマ教会を中心に聖歌が歌われ、徐々に形が整えられていったことは事実だが、そのころ歌われていた聖歌の実態はよくわからない。今日グレゴリオ聖歌の名で知られる聖歌の大部分は、9世紀から10世紀ころにかけて、アルプスの北のガリア・ゲルマン地域で成立したのではないかとする説が有力である。

 中世の最盛期にあたる9世紀から13世紀にかけて、それまでの聖歌に加えて、新しい聖歌であるトロープスとセクエンツィアが多数創作されたが、16世紀のトリエント公会議(1545~63)の際、トロープスは全面的に、セクエンツィアは一部を残して禁止された。17、18世紀にはグレゴリオ聖歌の衰退期を迎えたが、19世紀に、フランスのソレム修道院を中心として聖歌復興運動がおこり、それが今日の隆盛につながっている。

 各聖歌は、教会の特定の祝日における特定の典礼で使用されるように規定されている。音楽的にみてとくに重要なのは、ミサ典礼で歌われる聖歌で、原則として1年を通じて同じ歌詞を用いる通常文聖歌と、特定の祝日に固有の歌詞を用いる固有文聖歌(変化文聖歌ともいう)とに分かれる。また、聖務日課においても聖歌は重要な役割を果たしている。

 グレゴリオ聖歌の旋律は、近代音楽の長調短調とは異なる、教会旋法とよばれる独特の音組織によって律されている。教会旋法は、それぞれ終止音、属音、音域の違いによって8種類に分かれている。また聖歌は、原則的には楽器による伴奏をもたずにユニゾンで歌われるべきものだが、補助的にオルガンの伴奏が用いられることもある。

 聖歌の記譜には、ネウマとよばれる独特の譜法が用いられている。これは、音程の表示に関してはほぼ問題ないが、リズムの表示に関しては解釈に相違がある。各ネウマ符はそれぞれ長短の区別をもつとする説と、それらはすべて等価の長さをもつとする説に大別できるが、現在のカトリック教会は、聖歌復興運動の中心となったソレム修道院の人々が主張する後者の説を採用して、実践している。

[今谷和徳]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グレゴリオ聖歌」の意味・わかりやすい解説

グレゴリオ聖歌
グレゴリオせいか
Gregorian chant

ローマ・カトリック教会の単声の典礼聖歌。ローマ式典礼の本格的な聖歌として,中世から現代にいたるまで用いられている。古代ユダヤの詩篇唱賛歌が母体になり,その後教皇グレゴリウス1世 (在位 590~604) によって集大成されたといわれるため,グレゴリオ聖歌の名称があるが,今日これを否定する説も多い。その種類はミサ聖祭のためのものと,聖務日課のためのものとに大別され,さらにそのほかに特別な祭式などのための聖歌がある。歌詞はほとんどすべてがラテン語のもので,8つの教会旋法に基づき,ネウマという独特の記譜法が使用されている。しかしこの記譜法ゆえに,リズムの問題が今日なお聖歌論争の中心となっている。

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