仙台藩医で経世家の工藤平助(くどうへいすけ)の著。上下2巻。下巻は1781年(天明1)に成り、上巻は1783年の稿。18世紀後期にロシアの南下が進み、ベニョフスキー(ロシア軍捕虜となり脱出したハンガリーの伯爵)が在日オランダ人あての書簡の中で、ロシアには侵略の意図があると告げたことを機に北方問題への関心が高まった。本書は国防的立場からこれを論じた最初の書である。下巻は蘭書(らんしょ)の知識により、ロシアとカムチャツカ(赤蝦夷)の歴史と現状を述べ、ロシアの経略の歴史、カムチャツカと蝦夷地の地理を明らかにしている。上巻は対策で、ロシアが望むのは交易と考え、長崎などに港を開き蝦夷地の金銀を発掘して交易を開くことを提案。幕府に呈せられたのが機となり、1784~1786年に幕吏によって蝦夷地調査が行われた。『北門叢書』第1冊所収。
[塚谷晃弘]
仙台藩医工藤平助がロシア対策を論じた警世の書。上下2巻からなり,下巻は蘭書の知識を基にロシアの東方経略の実情を述べ,同国の植民地と蝦夷地との地理的関係を明示したもの。上巻はロシア交易による蝦夷地開発を説いたもの。1783年(天明3)老中田沼意次に献上された。その結果,田沼は蝦夷地開発を計画し,調査隊を派遣したが,彼の失脚によりこの計画は中止された。
執筆者:佐藤 昌介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
工藤平助が著したロシア地誌。2巻。上巻に天明3年(1783)の序,下巻に天明元年の識語(しきご)がある。赤蝦夷とはカムサスカ(カムチャツカのこと),またロシアをさすという。上巻には赤蝦夷風説のこと,付録蝦夷地に東西の別あること,西蝦夷のこと,下巻には「ロシア誌」など諸書から引用したカムサスカヲロシア私考,ヲロシア記事,ヲロシア文字などを収める。日本最初のロシア地誌として,また積極的な対ロシア交易論を展開した警世の書として幕府の政策などに大きな影響を与えた。「北門叢書」所収。
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…他方,営利の才に恵まれ,オランダ通詞と結託して,舶来品を売りさばき,巨利を博したと伝えられる。著書にロシア問題をとりあげて,その対策を論じた《赤蝦夷風説考》,密貿易対策を幕府に献策した《報国以言》などがある。【佐藤 昌介】。…
※「赤蝦夷風説考」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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